土曜日の朝7時、天気は快晴。
事務所に行こうと支度していると家内に呼び止められた。
京都に行こう。
誘いに乗ることにした。
読もうと思った専門書2冊は空き時間をやりくりすれば平日でも読める。
しかし、平日に京都散策するのは難しい。
それで事務所行きを取りやめ家に留まった。
起き出した二男がパンを焼き卵を焼いて手際よくわたしの分の朝食を作ってくれた。
自宅にこもって勉強するという二男を残しわたしたちはクルマで家を発った。
ガソリンを満タンにしてから高速に乗った。
クルマで走ること1時間。
最初の目的地は京都御苑と鴨川の間に位置する。
パン屋LANDは人気店。
早く行かないと目当てのパンが手に入らない。
だから朝一番で訪れたのだった。
買い込むこと5千円也。
目論見どおりの買物が果たせた。
そこから北へ向かった。
ナビの地図を見ながら緑の多い地帯を探し、鞍馬口近くにある建勲神社をジョギングコースに選んだ。
エムジーショップ鞍馬口店にクルマを停め、ウォーミングアップがてら、そこらを歩いた。
押し寄せる寒気の影響で肌寒い。
町屋風の通りを歩いているとき、京都屈指の蕎麦屋を偶然見つけることになった。
昼食はそこで決まりだった。
神社に差し掛かってまずは社殿に向かった。
主祭神は織田信長。
手を合わせ頭を下げた。
緑豊かで眺望のよい一帯を家内とともに小1時間走り、各所から京都の街を見渡した。
そして昼食。
名店かね井はすでに開店していた。
ちらと覗くと入口の他、奥座敷の戸も開いて屋外も同然。
かつ客もまばら。
全く問題ない。
そばがきとそば豆腐を前菜に食べ、メインは夫婦ともどもざる蕎麦と粗挽き蕎麦を注文した。
まずはざる蕎麦で夫婦揃って魅了された。
まるでアートの域。
なんて上品で繊細な蕎麦なのだろう。
続く粗挽き蕎麦でとりこになった。
食感と風味を堪能しつつ夫婦で頷き合い、いままで食べてきた蕎麦は何だったのかと夫婦で話し合った。
しめは蕎麦ぜんざい。
これまた美味しく大満足の昼食となった。
エムジーショップ鞍馬口店には地の野菜が取り揃えられていて、ちょっとした道の駅だった。
野菜と果物を買ってから鞍馬口を後にした。
途中、聚洸で予約してあった和菓子を受け取り、西に向かった。
ナビの地図を見るとそこらに金閣寺やら北野天満宮といった名所があるのが不思議に感じられた。
ああ、ここは京都。
千年の都なのだった。
どこに行くか思案しつつクルマを走らせ、品薄になる前に肉を買っておこうと話が決まり南に向かった。
目指すは、にし田。
ここで肉を買うのがこの日の主目的のようなものであった。
西大路通りを進んで丸太町通りに出たところで左折。
今回は全く迷うことなくたどり着けた。
ロース、ハラミ、カルビをすべて特上で500グラムずつ買い、上ミノ、テッチャン、ウルテを300グラムずつ、そして店内にあった生センマイとキムチを買って2万円ちょい。
実にリーズナブルと言えた。
目的を果たし後は自由時間。
三条駅近くにクルマを停め、鴨川の遊歩道に降りた。
午後になって気温がグングンあがり、汗ばむほどの陽気になっていた。
川べりでのんびりくつろぐカップルや家族連れの姿を横目に家内とともに上流に向かって走った。
青空をバックにトビが優雅に宙を舞い、様々な野鳥がキラキラと光る川面近くを飛び回っていた。
下流に向かって折り返す頃には、京都愛のようなものが胸に芽生えはじめていた。
こんな場所で学生時代を過ごすのもいいかもしれない。
そう思って、京都で過ごす大学生の自分を想像してみた。
それで思いがけず青かった当時の記憶の蓋が空き、甘酸っぱいような気持ちが込み上がってその取り扱いに戸惑った。
若い頃に戻るなどごめん被りたい。
そう明確に認識することになった。
クルマで着替え、少しドライブしようと家内が言うので四条通りに向かった。
店は大半が閉まり人影少なく驚いた。
八坂神社、平安神宮、三十三間堂といったあたりを走ったがどこもひっそりと静まりかえっていた。
午後4時、帰途についた。
名神の下りはがら空きであっという間に家に到着した。
夕飯は焼肉。
二男がベランダで肉を焼き、家内は長男に送る肉を焼いた。
食べて感嘆の声が方々から上がった。
家族で同意見。
にし田の肉はやはり他ではあり得ない美味しさだった。
たっぷりと食べ、同時に長男への荷も仕上がった。
焼肉にトマトにパンにかねふくの明太子、そして消毒用エタノールと手作りマスク。
言わば愛情がふんだんに詰め込まれたようなもの。
わたしがアマゾンを通じて長男に送ったレトルトカレーの差し入れとは雲泥の差であった。
充実の一日であり思い出深い一日となった。
事務所で本を読むよりはるかに濃厚で貴重。
誘ってくれた家内のおかげ。
この場を借りて感謝の意を述べておくことにする。