日曜朝、息子を送り出す。
夏場なので持たせる弁当はひとつのみ。
後は外食で済ませることになる。
彼も彼なり「孤独のグルメ」的な世界を有している。
弁当が一食減れば、それでその分増す充実がある。
いろいろ外で食べて楽しく、得られる学びは小さくない。
今日は丹波あたりに出かけよう。
そんな話を家内としつつ、わたしたちはジムに向かった。
同じ系列ならどのジムでも利用できる。
いつもはクルマで行くが、この日は徒歩で10分ほどのジムを訪れた。
最近滅多に通らなくなった道を辿って南下する。
地元の町並みが懐かしく感じられ、日曜朝にふさわしい新鮮さに満ちた散歩になった。
ジムは2号線に面した場所にあった。
日曜だから交通量は多くなく東西が真っ直ぐ向こうに見渡せて胸がすく。
雲間から青空がのぞき見え陽も差して、往路ですでにウォーミングアップが済んだも同然だった。
あとはファイト一発、思う存分カラダを動かすだけである。
家内の予想通り、ジムはがら空きだった。
家内が向けるiPhoneにピースサインを返したりしながら、じっくりゆっくりくつろいで、たっぷり一時間ほど筋トレし、心置きなく有酸素運動もしてカラダを仕上げた。
運動後、わたしと家内は同意見だった。
丹波探訪は次の機会に譲り、今日は肉でも買って昼から飲もう。
来る途中、肉屋を見かけた。
夫婦ともに頭にあるのはその肉屋だった。
この地に暮らして年月経つが「ミート甲子園」の存在を知らずに過ごしてきた。
静かな商店街の裏道にひっそり佇んでいるから、右往左往し暮らす若い夫婦の目には触れ難い。
それで気づかず、今に至ってしまったのだろう。
試しに買ってみようとなって肉を選んだ。
地味な店だが、品は確か。
そう直感した。
店主が気さくで、女将さんもお優しい。
これで肉が美味しければ申し分ない。
和牛500グラムと奉仕品ステーキを500グラム、それにしゃぶしゃぶ用の豚500グラムをまずは買い求めることにした。
その足でライフに寄り野菜や卵など日用の食材を買い、十一屋でワインを選んでこれで用事は完了。
家へと急ぎ風呂を沸かしてすぐ昼食の支度に取り掛かった。
すき焼きを囲んで赤ワインで乾杯。
夫婦で同時、箸がミートにミートした。
案の定、めちゃくちゃおいしい。
わたしたちは顔を見合わせ同じリズムでうなずき合った。
美味くて安くてとても親切。
これこそまさに灯台下暗し。
ミート甲子園を素通りしてきた今までの人生は何だったのだろう。
わたしたちは肉の美味しさと良店を知った喜びに打ち震え、次から次へと肉を頬張った。
肉がピークで後はなだらか。
食後は、たたただ平穏な時間が引き続いた。
公園から届くちびっ子たちのさんざめきを耳にそのまま寝入って気づけば夕刻となっていた。
たっぷり運動したせいか、横になっていただけなのにお腹が鳴った。
夕飯はあっさり目。
野菜のたっぷり入ったゲソ炒めとサーモンをふんだんに使ったサラダを家内が作ってくれた。
近況を報せるメールが長男から届く。
結構勉強し充実した日曜だったという。
大学生の頃と言えばわたしにとっては怠惰のピーク。
やはり息子はその真面目さを母親から譲り受けたと言えるのだろう。
一方の二男は窓の向こうに姿が見える。
帰宅してから公園を走り回っている。
高校生の頃と言えばわたしなど無精で鳴らした。
だから息子の馬力はどう考えても母親由来。
ハイボールを飲みながら夫婦で昔の写真をスクロールしていく。
テレビ画面にミラーリングされて映る画像に弁当が多いのは分かり切った話だが、子らが小さい頃、そこには数多くのメッセージが添えられていた。
結びの言葉は決まって、ファイト。
励ましのそのメッセージは、まだ彼らの胸の内にあって家内の声が届き続けている。
わたしの耳にまで聞こえてくるかのようであったから、わたしがそう確信するのも当たり前の話であった。