かねしろ内科クリニックが平野の地で開院しはや一年が過ぎた。
一周年を記念する食事会が先の6月13日に大阪マリオットホテルで開かれたが、わたしは奈良で仕事が入っていたため参加かなわなかった。
院長とはしょっちゅう連絡を取り合っている。
だからこの日顔を合わせたとき、それが久々のことだと最初気がつかなかった。
訪れるたび、上向きの状況が更に上を向いている。
そんなクリニックの躍進に毎回驚かされる。
注力している訪問診療については、平野の地が院長を適任と認めたからだろう。
すでにキャパ上限に達した。
新型コロナの影響でいっとき陰った外来の患者数も再び上昇していく兆しを見せている。
一年目にして五年目の存在感。
かねしろ内科クリニックは生まれたばかりで、ヨチヨチ歩きどころかもう加速し駆け出していると言っていいだろう。
オープニングから院長を支えるスタッフも同様。
見よう見まねで覚束なかったのは当初の一瞬だけ。
いまや看護師も事務も歴戦の十年選手といった貫禄を醸し出している。
根底にあるのは仕事愛。
そもそも院長が、残りの半生を医療に捧げると決めて平野に構えたクリニックだった。
すべての人に尊厳がある。
それを尊重し、かつ、病という課題を解決するため誠心誠意を尽くす。
そこに成長の意義と喜びを見いだせる人だけに手伝ってもらいたい。
医療について、院長の仕事観は一貫して揺らがない。
だから、平野の地を駆ける「チームかねしろ」には凄みさえ漂う。
役者が揃っているから、まさに毎日がドラマ。
ヒューマンなエピソードに事欠かない。
いま、外来も増え始めている。
もはや院長に余暇はない。
そしてそれが望むところ。
この歳になれば遊んでも仕方がない。
仕事の奴隷になるくらいでやっとはじめて医者としての務めが果たせる。
院長はそう言って最後にはいつも、正しいことだけが楽しい、との言葉に行き着くことになるのだった。
この日の夜、ミナミの老舗名店である末廣鮓をカネちゃんが予約してくれていた。
昔はよくマッチャンと通ったという。
すっかり賑わいの戻ったミナミの地に降り立ち、端正な作りの引き戸を開けて奥の座席に並んで座った。
開院時を振り返れば、おのずと田中院長の話となる。
阿倍野・田中内科クリニックの田中院長こそがかねしろ内科クリニックの導き役、チーフアドバイザーと言えた。
カネちゃんが天王寺の地下街を歩いていて、たまたま田中院長とすれ違った。
その際、開院について立ち話したのが事実上のキックオフとなった。
あとはトントン拍子。
カネちゃんが言う。
田中院長は医者仲間の間でスター。
頭が良く、人望あり人気あり、医者としての能力がすこぶる高い。
お近づきになりたい。
誰もがそう思うから、スターと呼ぶのがふさわしい。
そんな人物が親身に相談にのってくれた。
ついていた。
田中院長のレベルを知らない門外漢だからこそ、わたしは気安くタコちゃん、タコちゃんと声をかけていたということになる。
まさに身の程わきまえぬ、知らぬが仏。
頭のいいカネちゃんが、田中院長のことを頭がいいというのだから、わたしの視線はやや斜め上からさらに上、真上を見上げるに至った。
タコちゃんに会ったとき、今度からは上を向いて話そう。
そう心を入れ替えた。
珠玉極上の鮓を堪能し、お腹もふくれてお酒もまわり、店を出た。
いつもと同じ。
店の前でカネちゃんとハイタッチし、また今度と言って手を振って別れた。
カネちゃん、ゴチ。
身近に見上げて学べるお手本だらけ。
ほんと星光の同級生はいいものだ。