午後8時と言えば以前ならまっすぐ歩けないほど人で混み合い賑わっていたミナミであるが、その姿は見る影もなかった。
早めに着いたので、寂れかかる界隈をぶらり歩いて時間を潰してほどよい時刻、末廣鮓のカウンターで、かねしろ院長の到着を待った。
いま訪問診療で引く手あまた、大忙しの「かねしろ内科クリニック」である。
だから、仕事後はクタクタであってもいいはずなのに、院長にとってはその負荷の強度がちょうどいいのだろう。
相変わらずエネルギーに満ち溢れ、地域医療についてする熱弁のボルテージが下がる様子は微塵もなかった。
で、話の行く着く先が、「もっと働こう」というのであるから、まるで火の玉。
燃え尽き真っ白な灰になるまで、彼は地域医療に身を捧げるということなのだろう。
先日、うちの両親と話したばかり。
歳を取っても老人ホームに入るのは躊躇われる。
そう言う父と母にわたしは言った。
家で過ごすほうがよほどいい。
何かあっても大丈夫。
かねしろ院長がすぐに駆けつけてくれる。
そんな話を隣に座るカネちゃんに語り、よろしくと頼んで、カネちゃんがうんと頷いたからこれで一安心。
メトロ平野からうちの実家までやや距離はあるが、頷いたからには最高に身の入った医療を提供してくれることは間違いない。
大阪星光から一緒に家に帰ったあの当時、親のことを頼んで二人で盃交わすなど夢にも思わなかった。