体調すこぶるよく、食事は美味しく仕事は順調で家庭も円満。
申し分ない日々を送るが、たまに心を吹き抜ける寂しさだけは如何ともし難い。
日曜も朝6時から家内は食事の支度を始めた。
食材の買い込みと仕込みは前日に済ませてあって準備は万端。
いつもどおり手際よく、肉を焼きテールスープを仕上げ手作り味噌の味を整え果物を切ってご飯を炊いた。
息子の大好きなトマトを添えることも忘れない。
早くに出かける二男用の簡素な朝食と異なり、長男の分は豪華豪勢なものとなった。
長男の食べっぷりをキッチンカウンター越し眺め、おいしいとの声が聞こえると家内はそのたび微笑んだ。
帰り支度はすでに終えてあった。
息子のシャツをすべて洗濯しアイロンをかけ、緩んだボタンのつけ直しも完了していた。
かばん類などの消毒消臭も完璧にこなし、紙袋には焼肉弁当が鎮座し、その他、マスク一箱とアルコールをたっぷり充填した消毒スプレー2本の投入も済んでいた。
後は、帰るだけ。
先週の土曜に長男が突如帰省し、かれこれ7泊8日。
あっという間に時間が過ぎた。
その間、食事の用意をはじめ母として成し得るすべてのことを家内はやり遂げた。
朝9時。
息子が立ち上がった。
前回同様、西大和の同級生と一緒に帰るという。
その友人は東大生だが常に一緒というほど仲がいい。
行きも帰りも。
東京であれ大阪であれどこであれ一緒に過ごす仲間がいて、息子は一人にされることがない。
親としてそれが嬉しい。
友だちすべてに感謝の気持ちが湧いて出る。
玄関先で記念撮影し、ひととき親は別れを惜しんだ。
家を出るその背に声をかけた。
またいつでも帰ってこい。
スケボー駆って勢いよく遠ざかるその背を、まるで戦車みたいだと夫婦で口を揃えて見送った。
ぽっかり胸に穴が開いたような感覚。
やはり、寂しい。
夫婦で励まし合った。
二男の入試が終われば、はっちゃけよう。
しょっちゅう東京へ行き、そうそうコロナも収まれば、あちこち子らと旅行しよう。
そう話すが、やはり寂しい。
気持ちを切り替えるためジムへ行き、昼からワインを開け、ぼんやり午後を過ごし、夕刻、軽めの食事を済ませたところでやっと幾分、寂しさは薄れていった。
で、夜の9時。
家内の英語のレッスンが始まった。
フリートークの話題は東京へと帰った息子のこと。
寂しさにつける薬はなく、いかんともし難い。
ぽっかり開いた胸の穴の修復にはあとほんの少し時間が行き来する必要があった。