キッチンに水漏れが生じていた。
「ちょっと見てもらえませんか」
この日やってきた掃除屋さんに家内が試しに聞いてみた。
二つ返事で掃除屋さんが対応してくれた。
シンク下にもぐって数分。
何かが緩んでいたようで水漏れは呆気なく解決をみた。
掃除屋さんは言った。
簡単に直る場合でも業者の当たりが悪ければえらいことになる。
法外な値段をふっかけてくる場合があるので水回りを頼む相手はよくよく選んだ方がいいですよ。
実際、掃除屋さんはその業界に身を置いていた。
だから悪徳業者のやり口を熟知しているのだった。
水道局の検査だと偽って老人宅に上がり込み、わざと破損させてから修理して、はい5万円ですと請求する。
払えばカモとなり、定期的な訪問先とされる。
一発狙いの高額請求もある。
問い合わせがあれば商機。
軽微な故障でもタダでは引き下がらない。
長時間かけてあちこち手を加えたように見せ、はい120万円ですなどと請求する。
そこが業者の度胸の見せ所。
額の多寡が仲間内での勲章となる。
そう言えばと家内は先日の新聞記事を思い出した。
不当高額請求の被害件数で兵庫県は全国トップ。
そう報じられていた。
ネット広告や投函されたマグネット広告で気軽に問い合わせたのが運の尽き。
居座られたり凄まれたり、泣き寝入りする他なかった被害者は数知れない。
ほんとうに気をつけた方がいいですよ。
そんな掃除屋さんの話を家内から聞いて、いまは疎遠となったある人物のことをわたしは思い出した。
何年も前のこと。
お客さんとの酒席の場でたまたまその親方さんと知り合った。
生業は水道や空調の修理業とのことだった。
作業着を身につけ軽トラで町を流す姿は地味そのものだが、かなりの実入りがあって仕事を離れれば持ち物などは豪奢と言えるほど、しかも、奥さんがかなりの美人で年々美人の度が増し主婦らの間でカリスマ的な存在だと同席したお客さんから聞かされた。
なるほど。
そのときはその人物のことを才覚ある方なのだとしか思わなかったが、水道を通じて話がつながり、わたしはひとり勝手に話を決めつけ納得したのだった。
言い値を強弁する度胸さえあれば、額に汗した数百円の労力が数十万円に大化けし得て、数を重ねれば主婦のカリスマを一人生み出すことなど造作もない。
ここで話を飛躍させれば、そのカリスマの取り巻きたちが、カリスマを乗せて煽って調子付かせ、よって親方はもっと稼ぐ必要に迫られて、結果、高額請求に間接的に加担したと言えなくもない。
そうであれば、罪な話である。
やはり誰かを安易に持て囃すのは慎むべきことだろう。