明石での業務を終えて夕刻。
先日訪れた居酒屋「道場」のことが頭に浮かんだ。
あとは帰るだけ、しかも金曜。
自らをねぎらってもいいのでは。
そんな考えがちらと頭をかすめたが、そのまま電車に乗った。
何でもひたむきに継続してしまう性格である。
ここで気を許せば飲酒を連日再開することになりかねない。
そうなってはせっかくの数値が台無しになる。
途中、長田駅も素通りした。
単に冷麺を食べるつもりで肉まで焼いてついうっかりビールも頼む。
そうなる元の木阿弥を回避しようと思ったのだった。
車中、家内にメールを入れた。
もうすぐ家に着く。
ところが、家内はいま北堀江の美容室にいるという。
電車を降り、空腹だったから駅前のスーパーで柿の葉寿司を手に取った。
うちの家の通りを見ると、ゴミのネットが広げたまま放置されていた。
スーツを着たままきれいに畳んでから家に入った。
風呂を沸かし、洗濯物を取り込み、食洗機の使い方が分からないから食器を手洗いし、米を炊き、そしてようやく柿の葉寿司を食べて小腹を満たした。
頬張りつつ思う。
わたしは、用事をひとりでに片付ける自動ロボットのようなもの。
まるでルンバ。
こんな男がひとりいれば、女子はどれだけ助かることだろう。
旺盛に仕事して酒は飲まず博打もしないし浮気もしない。
料理を除き、家事全般を仕事と同レベルのクオリティでこなすから、家はいつだって整然としている。
自画自賛しつつ風呂で湯につかっていると、まもなく家内が帰宅した。
顔をのぞかせショートに切った髪型を見せてくれたのであったが、これがびっくりするくらいクールに決まっていた。
聞けばカリスマに切って貰ったという話で、これが抽選倍率百倍、予約至難の美容師なのだという。
名はi.Osakaの ISSEI。
最初の百倍さえくぐり抜ければ、あとは定期。
今後は毎月予約ができるという。
似合っているのが自分でも分かるからだろう。
家内は上機嫌。
そのウキウキとした表情をみて、自動ロボットルンバは自画自賛の度をひとり深めた。
今日一日を取り出せば、MVPはi.Osakaの ISSEI氏であろう。
また、恒常的には息子たち。
が、家内の幸福に寄与する面々のうち、縁の下でMAXの力を奮っているのは、このわたしに他ならない。
つまり、敢闘賞は揺らがない。
いつか将来、幸福寄与者のエンドロールに家内が目をやることがあれば、気づいて欲しい。
その末尾にはわたしの名。
もの言わず、その名が浮上し消えていく。
あ、そうかと気づいてもらえれば、ルンバも成仏できるというものだろう。