こまめな水分補給を欠かさず、熱中症に十分ご注意ください。
天気予報からそんなメッセージが聞こえるようになった。
いよいよ夏が到来したのだった。
この季節の変わり目を捉え、家内が言った。
今日は服を買いに行こう。
わたしにとって試着は苦行。
だから気が進まない。
が、日曜を過ごす代替案を持ち合わせておらず従う他なかった。
運転席に家内が乗り込み、わたしはおとなしく助手席に座った。
家内の賑やかな話し声をのせ、クルマは一路、三田プレミアムアウトレットへと向かった。
9時半に到着しコーヒーを飲みながら家内の買い物プランに空返事をしつつ、10時の開店を待った。
まず足を向けたのはラルフだった。
シャツやポロシャツといった定番の服を選び、続いてポール・スミスにて物色するがタイトなデザインがカラダに合わず、マーガレット・ハウエルへと場所を移した。
シャツやらジャケットやら試着してなかなかいいものと巡り合え、しかし、ズボンは斬新なデザインにカラダがついていかず見送った。
後はズボンを探すだけなのに用もないのにヘルノに入って、コートをあれやこれや試着させられ、ここでわたしは一気に疲弊することになった。
這う這うの体でそこを辞し、ブルックス・ブラザーズに逃げ込んだ。
ここのサイズがちょうどよく、シャツとズボンに加えて短パンにもいいものがあった。
なんとか夏を過ごす装いが整った。
ああ、これで解放される。
そんな喜びにひたって思う。
やはり家内のおかげ。
家内がいなければ、わたしは着古した服を更に着古すだけであり、健康にも気を遣わず、装いも中身も年齢以上に草臥れて、うら寂しい後半生を余儀なくされたことだろう。
真新しい服が揃って、時はちょうど正午になろうとしていた。
ようやく昼食。
引き続き家内が運転し三田屋本店へと向かった。
広々としたその居住感が素晴らしく、のんびり優雅に日曜のくつろぎにひたることができた。
窓の外の景色にも夏を感じた。
緑が目に眩しく鮮やかで、生い茂る葉が山間に吹く風に小気味よく揺れ、その様はまさに夏の躍動といったものであった。
三田を後にして、まもなく家というところ。
家内が言った。
ついでに眼鏡も買い替える。
助手席でわたしはずっこけ、もう疲れた、今度にしようと懇願するが、しかしやはりわたしに代替案はなく、家内の意に従う他なかった。
アクタにあるメガネのミキにて、家内に顔を明け渡し為されるがまま約一時間。
歳相応のもの。
そんな視点で家内が選び検査も終えて、ようやくわたしは家内が言うところの歳相応となって、苦役から解放されることになった。
下手すれば一気呵成に加齢する。
それを押し留めてくれるのは家内をおいて他にない。
だから、従うことがわたしにとって益となる。
良薬は口に苦し。
家に着き、買った品を玄関へと運ぶ際、心からそう思った。