チェックアウトは十二時。
だから、のんびり過ごせる。
そう思っていたが、十時にはじっとしていられなくなった。
さっさとホテルを出て、この日も同様、自転車を借りた。
日曜午前の大手町界隈を自転車で走る。
曇り空であったが、その分、涼しく実に快適。
そして、昼が近づき北へと針路をとった。
前日はとんかつだったから、この日は蕎麦で決まりだった。
神田界隈には名店がひしめいている。
初心者としてまず訪れるべきは、やぶそばだろう。
開店30分前に整理券を取り、十一時半までそこらをぶらついた。
志乃多寿司に目が行った。
客が絶えない。
人気店に違いない。
帰りの汽車で食べようと折り詰めを選ぶうち、時間になって蕎麦屋に戻った。
まず最初、ビールが運ばれてきた。
年配の女性店員がうやうやしく言った。
「お客様、このビールについて、重大なお知らせがございます」
何事かとわたしたちは顔を見合わせ、言葉を待った。
「ご覧ください、ラベルに鯛が二匹いるのがお分かりになりますか」
見ると、恵比寿さまが鯛を抱え、カゴにも鯛が入っている。
「これは数百本に一本あるかないかというとてもめずらしいもので、ラッキーエビスと呼ばれております」
そんなエビスビールがあることをはじめて知った。
何はともあれ、ついている、ということだろう。
以前、京都を訪れた際、たまたま乗ったタクシーが幸運の四つ葉のクローバー号だった。
何はなくとも、わたしたちは運だけはいいのだった。
食後は南へと戻り、丸の内仲通りをぶらぶら歩き、雨を察知したところでそろそろ帰阪することにした。
八重洲側に出て大丸で焼鳥と飲み物を買い、ホテルに戻って荷物を受け取ってから駅へと引き返しそのまま新幹線に乗り込んだ。
隣り合って女房とお酒を酌み交わし、意見が一致した。
飛行機より新幹線の方がやはり楽。
それにその気になれば途中下車して見知らぬ街に立ち寄ることもできる。
次回はどこかに寄って帰ろう。
そう話し合い、大阪の向こう、旅の続きを思い描く滞在最終日となった。