昼を食べ終え、歩いて博多阪急を目指した。
30分ほどの行程だったから腹ごなしにちょうどよかった。
朝、物は試しとばかり家内は博多阪急を訪れた。
思いがけず、そこで出合いがあった。
意中の品ではなかったが、おいそれとは出くわさないレアな定番品であり、この千載一遇のチャンスを逃すなどあり得ない話だった。
しかしそこで衝動買いするのではなく家内はいったん間を置いた。
取り置きを頼み午後にまた出直すことにしたというから、その点わたしの短慮と大きく異なる。
午後3時。
店の前には列ができていた。
クリスマスだからという訳ではなく、日本全国津々浦々どこにだって列ができるのだという。
予約してあったから順を抜かしわたしたちは店に入った。
普段わたしはこういった店の中へ足を踏み入れることはない。
が、旅先であり旅は道連れ。
わたしは店内のソファに座って待つ間、周囲を眺めて過ごした。
どう見たって夫婦ではない。
そんな初老男性と、真っ昼間なのに夜の装いといった全身なまめかしい若年女子の組み合わせがあって目をひいた。
それで合点がいった。
なるほどここはある種、おもちゃ売り場のようなものなのだ。
わたしだって幼い頃、祖父におもちゃをねだって困らせた。
無事に役目を終えて店を出た。
ああ、外の空気のなんと清々しいことだろう。
続いて人でごった返す駅のショッピングモールに向かい、息子らのために持ち帰る食料を吟味し選んだ。
結局あれもこれもとなって相当量の荷となったが、ジムで鍛えているからなんのこれしき。
わたしはこの役目も真っ当に勤め上げた。
博多の旅も大詰めに差し掛かった。
地下鉄で空港に移動し、荷を背負ったままぶらついた。
と、偶然。
通りかかったところに「もつ鍋おおやま」があったので、夫婦の足がそこで止まった。
博多で最初に乗ったタクシーの運転手「くすお」さんがすすめてくれたのが、「もつ鍋おおやま」だった。
同じフロアにラーメン滑走路があってそこに居並ぶラーメン屋にも未練が残ったが、旅は道連れ。
「くすお」さんの推しにわたしたちは従うことにした。
もつ鍋の濃厚は度を越していた。
それは味のカオスと言え、素材を引き立てる洗練の味の対極にあった。
食べて何だかカラダへの負担が感じられ、汗がどっと噴き出した。
夫婦で示し合わせたように途中で食べるのをやめ、揃って店を後にした。
ああ、外の空気のなんと清々しいことだろう。
地方は空港が空いている。
去年のクリスマスは大混雑する羽田で難儀した。
だから大勢の人が動く時期は地方で遊ぼう。
夫婦でそう意見が一致した。
スムーズに搭乗しまもなく離陸し、気づけば伊丹に着いていた。
そのままタクシーで家まで運ばれて、博多への愛着もわたしたちと一緒に家まで運ばれた。