当然、当たっている。
そう思っているから、「カードの決済通知」という吉報を待ちながら寝床で待機した。
しかし、夜が明けても通知はなく、かたやツイッターなどでは通知があったとの喜びの声がタイムラインに流れていた。
公演チケットの当選発表は午後6時とアナウンスされていた。
が、カードでの購入を申し込んだ場合、当日の夜中には事前決済されるから、それで当選したと分かる仕組みになっている。
だからこの状況を普通に考えれば、わたしは落選したのだとの結論が導き出されるだろう。
が、これが「ヒト」の本質なのかもしれない。
「何らかの手続きの兼ね合いで、わたしの分の決済が単に遅れているだけかもしれない」
わたしはそう考え、脳裏を明瞭に横切った結論を受け入れなかった。
万事休すとなるまでは、希望をつなぐ。
そうやって「ヒト」は生き延びてきたのだろう。
先日のテイラー・スウィフトに引き続き、今回のブルーノ・マーズのVIP席のチケットも当選すると家内は確信していた。
去年のブルーノ・マーズだって当選したのである。
今回は当選しないかもしれない。
そう考える理由など存在しなかった。
だからわたしは雲行きが怪しいことを家内には説明せず、不意にやってくるかもしれないカードの決済通知を待ちつつ、一日を過ごすことになった。
通知がやってきて、わたしはそれを家内に報せ、家内は満面の笑みを浮かべる。
そうなるはずだった。
だから業務後、足つぼマッサを受けるときも、わたしはアップルウォッチを外さなかった。
しかし、アップルウォッチは、終始うんともすんとも言わなかった。
正式な発表は午後6時だった。
だから結局わたしも正式な形で発表を待つことにした。
その時間をわたしは場末の居酒屋のカウンターで迎えた。
ビールを飲みつつ、「当選」を報せるメールの着信を待った。
そして、午後6時ちょうど。
メールが届いた。
この度は抽選にお申し込みいただきありがとうございました。
先般お申し込みいただきましたチケットにつきまして、
厳正なる抽選を行った結果、残念ながら今回はチケットをご用意することができませんでした。
またのご利用をお待ちしております。
万事休す、であった。
瓶のビールが生ぬるくなっていたので、わたしは生ビールを頼み直した。
冷えたビールを喉に流し込むと不思議なことになんだか気持ちが冷めてきた。
今回の公演の時期はどのみち二男の冬の期末試験と重なっていた。
当選していたら二男も困惑したに違いない。
なるほどうまい具合にできている。
うちにとって好ましいのであるから、この落選はうちにとって当選も同然と言えるではないか。
それにお金も浮いた。
ああ、当たらなくてよかった。
これがこの日の正真正銘の結論だった。
このようにしてわたしたちは今日も明日も元気はつらつ、いろいろな結論をこねくりまわして生きていくのだった。