朝、新聞を広げようとして折込チラシに目がいった。
大手塾の広告にでかでかと合格実績が印字されていた。
灘や甲陽といった地元の名門校に続き、西大和や大阪星光の記載もあった。
久しく忘れていたが、うちも中学受験したのだとの記憶がよみがえり、少しばかり冷え込みはじめたこの季節、ありありとその記憶が溢れ出すことになった。
受験に臨んだのは長男が2013年、二男が2015年のことであるから十年ほども昔の話になる。
受験を控え好きな旅行にも行かず家族そろって地味に地道に過ごし、本番が近づくにつれ、つまりちょうど今頃の時期、差し迫ったような緊張感が高まりはじめた。
本番前日などもはや緊張感が極まって何も手につかず、当事者であることに耐え難いような気持ちにまで至った。
だから合格を得られたとき、長男のときも二男のときも、まさに天にも昇るようなふんわり感に包まれた。
これは家内も同様で、祝勝の宴での家内の緩みっぱなしの笑顔は、合格が人生屈指の吉報であることを如実に物語っていた。
中学から高校へと引き続く6年間は思えばあっという間のことだった。
しかし中身は濃厚で、勉強にもスポーツにも励み、なによりも少なくない数の友情が濃く深く育まれた。
世にはいくらお金を積んでも手に入らないものがある。
その筆頭が友だちと言え、長男も二男も言うなれば「タダで」素晴らしい友人らに巡り合うことができ、その縁は卒業後も発展的に継続しているから、「タダほど高いものはない」との慣用句を別様に捉えたくなるといった話だろう。
そして副産物もあった。
西大和を通じ、また大阪星光を通じ、長く付き合うことのできるママ友を家内は得ることができた。
西大和チームと大阪星光チームの集まりはこれまで別々であったが、このほど家内がインストラクターの先生を招聘し、ヨガ&料理教室を企画してその場で双方のママが顔を合わせることになった。
これにより家内の人間関係もよりいっそう豊かさを増すことになるから、こちらのタダも実にプライスレスな話だと言えるだろう。
ペラペラの塾のチラシを手にとってしみじみ思った。
思った以上に中学受験は分厚い壁であったが、それをぶち破った先には、よい未来があった。
ああやれやれ。
とっくに終わった話なのに、今更ながらほっと胸をなでおろすような気持ちになった。