ソウルの冬は一足早い。
空港に降り立ち、ぞくっと震えるような冷気を感じた。
カバンに詰め込んであったウィンドブレーカーを羽織ってリムジンバスに乗り込んだ。
向かうはロッテホテルワールドでチェックインを済ませてから昼を食べるためタクシーに乗った。
スンデスープの人気店が江南にあるという。
昼どきを過ぎ時計は午後2時を指していたが客の列がまだ残っていた。
底冷えのするソウルの路上で順を待ち、ようやく案内されて口にしたスンデスープは鮮烈に記憶に刻まれるほどにおいしかった。
これは何度でも食べたい一品で、並んででも食べたい一品と言えた。
そしてそこからAbijou江南へと移動した。
どこか高級ホテルのラウンジのような設えで、若い男性客も少なくなかった。
なるほどここは美容大国なのだった。
いちおうわたしもカウンセリングを受けた。
美人カウンセラーに優しく丁寧にいろいろと勧められたが、劣化しようがどうであろうがこの顔に愛着があるので話だけ聞いて最後の最後に断った。
お金が浮いて、時間も浮いた。
それでわたしは冬の夕刻の街路を歩き回って、お腹もこなれたからわたしにとってはそれが最も適切な時間の使い方だと思えた。
家内と合流しその場でカカオでタクシーを呼び、サムギョプサルの人気店へと直行した。
順番を待つ間、店外に置かれたテレビゲームに夫婦で興じ、まもなく席へと案内された。
動物性タンパク質を旺盛に食べる。
その喜びに心からひたって、わたしたちは肉を何度も追加した。
そして翌朝。
ゆっくり目の始動となったから、朝食はスキップした。
ホテルに隣接する百貨店の地下食をぶらついて、これはと思った店でナクチビピンパとユッケビピンパをおいしいおいしいと言って平らげ、その勢いのまま店をはしごして海鮮チャンポンとジャージャー麺をおいしいおいしいと言って味わった。
日本でこんな食べ方をすることはない。
が、韓国に来るとどうしてもあれもこれもとなってしまうのだった。
食後、明洞に移動し買い物などして動き回るうち夕刻になった。
十年前に家族4人で訪れた懐かしの店を訪ねることにした。
中途半端な時間であったから列に並ぶことなく席に案内してもらえた。
そしてかつてと同じメニューを注文し、さすがに全部は食べきれないと思ったが、おいしいから結局はすべて腹に収まっていくのだった。
もはや何もいらない。
そんな状態であったが、ジュノのコンサートを前になにか腹に入れておこうとわたしが外へと出かけてコーヒーを調達し、部屋でケーキをついばんだ。
ホテルのケーキのおいしさはこれはもう何度も夫婦で顔を見合わせるほどだった。
二泊三日の旅もあっという間に時間が過ぎて、いよいよ最終日となった。
睡眠不足であったが朝から泳いでカロリーを消費して、タクシーを使ってケジャンを食べに街へと出かけた。
動物性タンパク質をワイルドに食べるという点でこの国にまさるところはないだろう。
大ぶりのカニを鷲掴みにし食らいつき、まさに文字通り髄までしゃぶって根こそぎにした。
今回もまたソウルの地にて豪勢に食べた。
が、まだ終わりではなかった。
搭乗の時を待つ空港のロビーにて。
ロッテ百貨店で買い込み保安検査をくぐり抜けた品々を広げてつまんだ。
有終の美はこの国のB級グルメによって結ばれた。