過去の業務について職員らと思い出話にふけって気がついた。
業務の記憶は消えたり薄れたり、かつあれこれ混ざり合ったりして、確として残るものは数少ない。
しかし、そんななかクリアに残っている部類の記憶があって、これには例外がなかった。
タコちゃんと仕事の話をしたのは新緑の季節を間近に控えた四月のことで場所は阿倍野の喫茶店のテラス席だった。
そのように、顧問先誕生という瞬間は朝であったり夜であったり夏であったり冬であったり正月三ヶ日であったり近場であったり遠方であったりシチュエーションは様々異なっても、細かな情景まで含めすべての場面が印象深く記憶にとどまっている。
場に臨んで、神経が全方位に開いて意識が平素とはまったく異なる風に変性しているからだろう。
過去を振り返り、それら鮮明な点の数々を結べばわたしの仕事の軌跡がくっきりと浮かび上がる。
わたしがそこを辿ったというよりも導かれたという方がしっくりくる。
だからいつかその軌跡が何か意味を帯びた図柄に見えるときが来るのだろう。
そのときこの歩みはささやか歴史を刻んだと自負できるようなものとなり、しかし同時に込み上がる喜びがどのようなものなのかいまはまだ想像しがたい。
だからそれまでは引き続き倦まず弛まず。
導かれるまま進んであるとき、ああそういうことだったのかとうっすら涙目になってわたしは自分について知ることになるのだろう。