一階にあるペストリーブティックでケーキを買い、部屋から南山タワーを眺めつつ家内とお茶して過ごした。
お茶の後は別行動。
家内はソルファスにてエステを受ける。
待つ間、わたしはジムで運動することにした。
日曜の日課でもあるから旅先であっても当たり前な選択であった。
まずは三階にあるインドア・プールに向かった。
インドアと言っても天井が半分も開いて青空の真下にあるのだから屋外みたいなもの。
この日ソウルの気温は30℃。
泳ぐ者は他に誰もおらず、ギンギラの陽射しを受けキラキラに輝くプールの光のなか、悠々泳いだ。
40分間クロールで泳ぎ、途端にスピードが落ちたところで丘にあがって続いては四階にあるフィットネスジムの地を踏みしめた。
窓の向こうの山の稜線をぼんやり眺めつつ、昔はそこに虎が棲息していたのだろうかと想像しつつゆっくり走った。
この地の虎はすでに絶滅し、もしかしたら後を追うように、人のなかにあるトラ的要素も現代では滅亡の危機に瀕しているのではないだろうか。
この日、ホテルのロビーで見かけたご老人は、威厳そのものといった風格を漂わせていた。
昔はこんな人物がいくらでもいたのだろうが、いまでは目にすることは滅多にない。
ホテルのロビーを見渡せば、物分り良さそうでソフトでスイートな男性ばかりが目についた。
そんな男性が美貌の女子にかしずいて、その様はまるでニャンコ。
男子の愛玩動物化は世の趨勢なのかもしれない。
スイミングとランニングでちょうど100分。
家内が受けるエステの時間とドンピシャ一緒。
サウナを出てわたしは家内とホテル近くの「元祖1号奨忠洞ハルモニチッ」で待ち合わせた。
昼にここで冷麺を食べていたので待ち合わせするのに格好であった。
通りにあるどの店もガラガラなのにここだけが混み合っていて人気のほどが窺えた。
ソウルを旅し、鳥を食べ、牛を食べ、そして締めに食すのがこの店が提供する絶品の豚となった。
恋人同士、女子友同士、家族連れ、父子連れ、いろいろな組み合わせの客がチョッパルすなわち豚足料理をがつがつと頬張っている。
3人前か4人前をぺろりと平らげる青年がいて、その食の旺盛と体躯を見て、それでいて真向かいに座る女子にかしづいている風であったから、ニャンコにしておくには惜しいとわたしは思った。
初心者であるわたしたちは二人でスモールサイズを頼んで分け合った。
豚足のうえにこんがり焼かれたチャーシューがたっぷり載せられ、これでスモールなのかとその山盛りに最初は驚いたが、あまりに美味しいのでどんどこ食べ進むことになった。
ビールからはじめ家内の提案でマッコリに移った。
異国にて夫婦でマッコリ。
これはなかなかの風情である。
最後は清涼な冷麺で仕上げた。
同時に店を出た隣席の恋人同士が手をつないで前を歩く。
その様子を真似てのんびり並んで歩く。
日中の暑さはすっかり影を潜め、夕刻、風はほんのり冷気を帯びて涼しく、薄暮の蒼みに心が芯から安らいで、より一層この時間が味わい深いものとなった。
そして夜。
旅の大団円を飾るのは、新羅ホテル名物のマンゴーピンスであった。
混み合っていて部屋で待つこと30分。
席を用意しましたとの連絡が入って、一階のラウンジに降りそこから待つこと更に15分。
焦らすことだけのことはあって、納得の品であった。
マンゴーが好きでかき氷が好きで小豆が好きな家内はその大集結を大いに喜んだ。
この夜供されたマンゴーは済州島で成るという。
今度行かねばならないだろう。
そう家内と話し合うが、行きたい場所ばかりが次々増えてほんとうにキリがない。