5月2日は金曜。
平日だった。
家内は朝からリッツ周辺へと散策に出かけた。
ヴァンドーム広場を通りリュクサンブール通りに抜けるコースを歩き、折々写メが送られてくる。
わたしはホテルの部屋で仕事をこなすが、街の空気が写真を通じて流れ込み、一緒に散策しているような気分になった。
日本時間で終業となる頃合い、ようやく仕事から解放された。
時差の恩恵で、こちらはまだ昼前。
窓の向こうには初夏のような陽光が降り注ぎ、外出をせかされるような気持ちになった。
マドレーヌ寺院前にて家内と合流した。
重厚な神殿を眺めていると、近くに「マッシモ・デュッティ」の店舗を発見した。
旅先での服の調達にちょうど良いと思い、立ち寄ることにした。
家内が次々とアイテムを手に運んでくるから、わたしは試着室に居座ることになった。
もういいよと思っても、その勢いは止まらなかった。
わんこそばのように服が押し寄せ、ついには草臥れ果てた。
ようやく解放されたときには昼の予約の時間が迫っていた。
バスに揺られセーヌ川近くで降り、「Cheval Blanc(シュヴァル・ブラン)」を目指した。
LVMHが手がける超高級ホテルである。
フレンチは満席だったが、幸い家内が事前に予約しイタリアンに席を確保できていた。
席に通されて思わず息を呑んだ。
眼下にはセーヌ川。
エッフェル塔も見渡せた。
午後の明るい陽射しを浴びて、パリの美しさがひときわ際立った。
そんな空間に身を置くと自然と優雅な気分になって、ワインも美味しく、ついつい飲みすぎてしまうことになった。
食後はいったんホテルに戻ってひと休みすることにした。
部屋で「エミリー・イン・パリス」を見ながらのんびり過ごし、体力も回復したところで、いよいよこの日のメインイベント。
わたしたちは「Maison Sota(メゾン・ソータ)」へと向かった。
パリでも注目を集める日本人シェフのフレンチレストランである。
一皿一皿がアート作品のように美しく、その色彩と洗練された味わいに夢見心地となった。
日本でなら、神戸の「北野坂木下」という店が素晴らしいと話すとスタッフがシェフにそのことを伝えてくれた。
帰り際、厨房に寄ってソータさんにご馳走様でしたと声をかけると、笑顔で会釈を返してくれた。
身も心も満たされて、帰りはメトロを使ってホテルへ戻った。
この旅もいよいよ終盤に差し掛かった。
残された時間はわずかだが、まだこの街の彩りの中を歩き回れると思うと名残惜しさとともに静かな喜びが湧いてきた。
そんなひとときに思いを巡らせながら、パリの空気に包まれ安らか眠りについた。