KORANIKATARU

子らに語る時々日記

2025-04-01から1ヶ月間の記事一覧

そこは憧れと現実の距離が可視化される場所だった

到着初日、ホテルで一休みしてから街へと出た。 家内に率られ最初に向かったのはエルメスだった。 予約はしていないがまずは偵察。 家内の狙いの詳細は分からないが、一兵卒は将校の後をついて歩いた。 わたしは下町の水の中にどっぷりと浸かって育った。 だ…

パリの夜が未来を照らした

夕飯はフレンチ。 家内が予約してくれた。 調べ尽くしたうえで組まれたスケジュールには、聞こえ高い名店がずらりと並ぶ。 その一発目がBaillotteだった。 タクシーを飛ばしチョコレートを買いに回っていた家内と店で合流した。 席に案内されると隣席は日本…

パリがあるから生きてゆける

土曜日の朝、ホテルに到着した。 まだ朝の10時なのに部屋へと案内してもらえた。 口コミが際立ってよく、それで選んだホテルだった。 値段のわりに部屋は狭かった。 しかしそこはパリである。 こじんまりとした手狭さすら趣き深いものに感じられた。 若いカ…

空飛ぶゆりかごを乗り継ぐこと計20時間

乗り継いだ後、機内のWi-Fiが機能した。 シートにカラダを預けゆったりくつろぎながら業務をこなした。 現場からはるか遠く離れ、かつ地上からもかけ離れていて、その距離感が仕事に余裕をもたらした。 グローブのオンスがかわって、仕事というパンチがふん…

圏外にて思いがけず再起動

午前中、豊中で業務があり、その直前にズーム会議の予定が入っていた。 女房に運転してもらい、豊中への途上、クルマの助手席に座ってズームした。 こうして仕事の一端を女房も理解することになる。 業務を終え事業主に豊中駅まで送ってもらい帰途に就いた。…

無為な時間に喜びが伴った

業務を終え巽南駅から千日前線に乗った。 途中、家内からメッセージが届いた。 迎えに来るという。 もう電車に乗った。 ガソリン代、高速代、労力もろもろ、勿体ない。 そう言って固辞する旨、返信した。 が、家内は引かない。 ラッシュ時、電車よりクルマの…

家族であることの難しさ

この近所に新居を購入し、その家族がやってきたのはもう10年以上も前のことだった。 越してきてすぐにご主人が地方へと転勤になった。 以来、あちこちを異動で巡り肝心の新居には盆と正月くらいしか戻ってこないという状態が続いている。 あと数年で定年を迎…

いたずら小僧に導かれて

そもそも一兵卒としての気概を欠いていた。 遠い昔のこと。 就職先を探すにあたって、仕事がハードだと言われるところはまず選択肢から外した。 大学時代の暇な時間を通じ十分に自己理解に達していた。 給料が入ってビールが飲めて本が読めれば十分。 だから…

焦がれた空と宿った光

夏の光が眩しい7月のこと。 わたしはまだ二十代で伊丹駅にて電車を待っていた。 空をジェット機が横切ってしばしみとれた。 ああ、どこか遠くへ行きたい。 当時わたしはしがない勤め人で、心象としては檻の中で繋がれて暮らすも同然だった。 だから、光をま…

消える矢印と残る矢印

日曜のヒロコーヒーの混みようは尋常ではなかった。 並ぶことを断念しクルマを走らせ、西宮駅近くのコメダ珈琲に行き着いた。 家内にとってはじめてのコメダ珈琲だった。 ​​まずサンドイッチの大きさに目を丸くし、ビザトーストの内側にまでたっぷり詰め込ま…

ふたりの日常が「常」になる

初夏を思わせるような日差しが勢いよく降り注ぎ、気温がぐんと上がった。 その光に背中を押されるようにして寝具を干し、冬の間、わたしたちを暖かく包んでくれた毛布類を運び出し、クルマに積み込んだ。 新たな季節がやってきた。 収納する前にきれいに洗っ…

最底辺を乗り越えて、感謝の言葉が夜に灯った

ほぼ一切、お酒は飲まない。 そんな習慣がすっかり定着している。 が、誘われれば拒まない。 愛嬌たっぷり。 待ってましたと小躍りして応じる。 金曜の夜、仕事を終えての帰途、ちょいと付き合ってから帰宅した。 だから家で女房と二次会となるのは自然な流…

思い出の数が充実度を左右する

淡路島で業務があった。 行きは家内に運転を頼んだ。 阪神高速が混み合う前に家を出て、澄んだ空気の残るなかクルマは御食国へとひた走った。 助手席に座って、朝9時半、ズームで会議に臨んだ。 視線を上げると空は晴れ渡ってぴかぴかで、いつもよりやりと…

疲れたぶんだけ、いい旅になる

前夜、二人でアド街ック天国を見ているとヤウメイが紹介されていた。 ちょくちょく通う馴染みの店が登場して、ちょっと嬉しい。早速、家内が予約して午後3時半の席を確保した。 昼食抜きで時間をやり過ごし、期待に胸を膨らませ足取り軽くヤウメイへと向か…

日常の裏側に織り込まれた非日常

買い物がてら銀座のビルズで朝食をとることにした。 開店前に到着したがさすが人気店。 入口にはすでに大勢の人が詰めかけていた。 もちろん全員が全員、外国人観光客だった。 海外特有のフレグランスが充満し、とてもここが日本だとは思えなかった。 幸い、…

テレビの向こうに映っていたのは

上野駅から山手線外回りで新宿へと移動した。 知らない駅ばかりで家内には新鮮だったようだ。 鶯谷に美味しい焼肉屋があるなどすぐに調べ、今度は上野に泊まろうと意欲満面になっていた。 いつもと異なる風景に触れる。 旅においては単に電車に乗るだけでも…

煙と桜と魂の入口

上野へ行こうと女房が言ったのは、記憶のなかにある昨年の桜に誘われてのことだろう。 昨年もちょうど今頃、夫婦で上京し桜見物に明け暮れた。 前日さして歩いていなかったが疲れがあるとのことだったので、上野にある足つぼマッサの店を探した。 本場中国っ…

ふたつの光が照らす場所で

場所は紀尾井町のプリンスギャラリー。 窓の向こうには、東京の夜景が一面に広がっていた。 前方にはスカイツリー、右手には東京タワーが見える。 ふたつの光が、夜の東京をそっと照らしていた。 まさに両雄そろい踏みといった図であった。 これまでにも、さ…

記憶の棚に新しい景色

女房との遠出など、ほんとうに久しぶりのことだった。 朝9時の開店を待って喜八洲のみたらし団子を買い、それを携えて新幹線に乗り込んだ。 女房の誕生日を東京で祝う。 そんな趣旨のもと、ほんの少しだけ日常を抜け出す小さな旅を企画したのだった。 世界…

雨の中、わたしに還る

夕刻帰宅し武庫川に出た。 小雨がぱらついていたが構わず走り始めた。 雨とともに吹き始めた風がカラダの熱を冷まして心地いい。 小刻みに呼吸を重ね、意識的に身中の澱みを洗い流していった。 折り返したところで本降りとなった。 ずぶ濡れになる感覚が新鮮…

ダルマに目を入れる仕事

顧問先の食事会に招かれた。 院長をブレーンが囲む。 弁護士、税理士、そしてわたし。 皆でクリニックの歴史を振り返った。 ここ一番、それぞれが力を出し合い、いろいろあったが乗り越えてきた。 日々の断片だけではその実像は窺い知れない。 長いスパンで…

ふんわりと今日が着地する

朝、出発の際、じゃあねと家内に声をかけた。 ソファに寝そべってくつろぐ姿が微笑ましい。 幸福を絵に描けばこうなる。 そんな様子を目にして男冥利に尽きるような思いがした。 ごゆっくり、と言葉を付け足しわたしは仕事に向かった。 昼にかけて、汗ばんだ…

夜桜のもと過去と未来を行き来した

長きに渡った補修工事が昨日で終了となった。別れ際、若い職人のうちの一人が言った。 また、よろしくお願いします。 また? 家内がその言葉尻を捉えると、彼は言った。 15年後にまた。 家には手入れが必要で、まだまだ入り用が続く。 わたしはそう悟った。 …

わたしという個はいまここにしか存在しない

日曜の朝、クルマを走らせジムへ向かった。 前回が2月9日だから、わたしにとってほぼ2か月ぶりのジムだった。 じっくり運動すれば、3時間は過ごすことになる。忙しくて余裕のない時期、真っ先に削られるのがジムで、それで長期にわたって足が遠のいてい…

自分のリズムで生きる、その自由

4月に入って業務の濃度が薄まった。 霧が晴れたみたいに自分の仕事の実像が浮き彫りになる。 お客さんのところをぽつぽつと渡り歩いて、その合間の時間の方が長い。 つまり、ほぼすべての時間が非稼働に属している。 例えるなら、「孤独のグルメ」の主人公…

空飛ぶ蛇尾と主従の主

短時間で終わる訪問業務が2件のみ。 合間はカフェで作業に勤しむが、まあお茶していただけとも言えた。 だからエネルギーが有り余っていた。 帰宅し、ひさびさ肉でも焼いて食べようと家内に提案し意気投合。 金曜の夕刻、夫婦で店へと足を運んだ。 昔は量を…

この日ばかりはほんの少し光を帯びる

夕方、家内と出かける用事があったから、少し早めに家に戻った。 このところ、家では補修工事が続いている。 屋根、壁、ベランダ、洗面台、風呂、加えてセコムのセキュリティまで。 暮らしの場を少し手入れしようとのつもりが、あれもこれもと付け足すうち結…

照れた笑顔と迎えのクルマ

10年ほども前のこと。 一緒に飲んだとき、33期のタローが言っていた。 帰りが遅くなるといつも奥さんが駅までクルマで迎えに来てくれる。 めっちゃええ奥さんやん。 そう言うと、タローはどこか照れたような、嬉しそうな顔をしていた。 笑顔の向こうに幸福な…

変わらぬものに触れた春初日

新今宮から南海電車に乗り換えて和泉中央を目指した。 駅からタクシーで目的地へと赴いて、前半の業務を終えたところで院長と昼に出た。 院長が38期でわたしは33期。 期は違っても大阪星光つながりで通じる空気があって話は早い。 場所は釜山道川の和泉中央…

未来にやさしく照らされる人影ふたつ

業務を終え、家内と夕刻、家を出た。4月を翌日に控えているにしては肌寒い。 わたしも家内もダウンジャケットを着込みマフラーを巻いた。 芦屋で降り、南に向かって歩いた。 茶屋さくら通りはここ最近、桜の名所として存在感を増している。まっすぐな道の両…