晴れ渡る空のもと。
波音とカモメの鳴き声をBGMに女房とセント・キルダ・ビーチを歩いた。
結構、長く延々と。
歩を進めるごとに太陽はゆっくりと水平線へと傾いていった。
その光を受けやがて海面が様々な色を帯び始め、移ろう色彩のグラデーションが美しく、眼前の風景は誰かが丹念に塗り重ねたキャンバスのようにも思えた。
夕暮れ時であっても日差しはまだ強く、頬にあたる光が暖かい。
が、南極から吹き抜けてくる風は驚くほど冷たさを増していた。
暖かな日差しと冷たい風、波音と静寂。
それらすべてが織り成していたのは言葉にできないほどの心地よさだった。
心解き放たれたような時間に揺蕩い、夫婦揃って思ったことは同じだった。
人生を、思う存分楽しもう。
つまりわたしたちは啓示を受けたも同然だった。
気づけばわたしたち二人も一緒。
メルボルンのゆったりとした夕暮れの光景に溶け込んでいた。