1
休日の朝だけ洗い物をする。
そう心がけている。
現在、二週に渡って継続中だ。
食洗機は使わず皿やらコップやらを手洗いしていたときのこと。
家内は食卓に座ってパソコンを触っている。
キッチンカウンター越し、その姿は目の前だ。
と、家内が私にパソコンを向け画面を指差す。
吹き抜けの窓から朝の光が降り注いでいる。
画面が光を跳ね、一瞬視野がくらむ。
目を凝らす。
それはわたしの日記のページだった。
一気、冷や汗が噴き出す。
隠し事など何もない。
しかし故あって、この日記については秘し隠す。
子らが巣立つまでは未完の日記。
せめてそれまでの間、思う所あり家内にだけは内緒にしておきたい。
以前、明るみとなったことがあった。
一旦閉鎖した後、それまでの根城を引き上げ、自画像を消し、そして名前を伏せた。
完全に非公開にするのでは張り合いなく浮かばれないので、陽の目見る程度には公開するけれど、あまり目立たぬよう時折は非公開設定にするなど、以降、適当に塩梅するようになった。
ところがこの朝、家内があるキーワードで検索し、のこのこと海面に浮かび姿を現してしまったのだった。
これは何?と家内の目が問う。
咄嗟に取り繕う。
そのトピックのものだけ昔のデータが残っているのではないだろうか。
誰かがコピペし残したに違いない。
そう言いつつ皿洗う手を止める。
即座iPhoneを操作する。
指ががちがちと震えうまく目的を果たせない。
もつれる指を這わせて悪戦苦闘、何とか日記全体を非公開設定にできた。
その場はしのげた。
そして間をおかず、対策を講じる。
家内が検索しそうなキーワードで浮上しかねないページをいくつか非表示としていく。
この日記に至りそうな通路を塞ぐ、一部通行止めのようなことをしたわけであった。
ルパンが銭形をかわすみたいに、尻尾を掴まれるすんでのところで今回は切り抜けることができた。
2
昨夜、夕飯。
家族四人で鍋を囲む。
奈良で買った葛切りが歯ごたえあって美味しい。
炭水化物を含有するが構いはしない。
家内が金毘羅さんのうどんを鍋で茹で、子らの器に放り込んでいく。
子らが麺をすする。
家内がカニを砕き、そこに蟹身を投下していく。
麺の流れに蟹身が混ざる。
麺をすするように子らが蟹身を呑み込んでいく。
末恐ろしい食べっぷりだ。
そして、引き続いてはまさかの雑炊。
うどんをあれだけ呑み込んで、次に雑炊をかっ食らう。
一昨日は肉をさんざん焼いて食べライスをお代わりし、最後に冷麺まで平らげていた。
それらはすでに彼らの血となり肉となり残りはあらかた燃焼済みなのであろう。
食べる様子がバイタルサイン。
ライブで生命真っ盛り。
目を見張る。
子らが旺盛に食べる姿に家内は顔をほころばせている。
嬉しくて仕方ないといった様子だ。
自ら食べることなど後回し。
カニを次から次へと砕きゾウアザラシにエサやるみたいに子らに放る。
私はそれを眺め、湯豆腐をつつく。
日記のあり方について大きな方針転換をはかる時期かもしれない。
どこかで完結させ、全く違った内容にしていくべきなのだろう。