ぼやぼやしていると混み合う。
だから観光地へは朝早く行くに限る。
パリ滞在も残り僅か。
エッフェル塔をじっくり見よう。
で、トロカデロ広場へと向かった。
地下鉄トロカデロ駅から地上に出た。
朝の柔らかな光のなかを歩くこと数十秒、左手に突如として現れたエッフェル塔の威容に心を奪われた。
無言でしばらく眺め、場所を変えて何度も見上げた。
なぜこれほどまでに人を魅了するのか。
その答えが眼前にあった。
続いてパレ・ド・トーキョー内にあるパリ市立近代美術館へと向かった。
お目当てはラウル・デュフィの傑作「電気の妖精」だった。
2年前、家内の妹分が翻訳を手がけたソウルの展覧会で複製画を見て以来、本物を原寸大で見たいと願っていた。
デュフィ独特の色彩と線描の妙が見事に融合し、実物は想像を遥かに超える迫力だった。
そこに腰掛け、家内としばし見入って過ごした。
美術館の外に出ると、近くでマルシェが開かれていた。
色とりどりの野菜や果物、焼きたてのパンの香りが漂っていた。
地元の人々が買い物している光景は、まさにパリの日常そのものだった。
わたしたちはガレットを食べ、その素朴な美味しさを楽しみながら、パリの朝の空気に浸った。
午前の締めくくりは建築・文化財博物館。
目的は展示室の窓から見えるエッフェル塔の姿だった。
トロカデロ広場からの眺めと異なり、建物の額縁に切り取られたエッフェル塔は、まるで一枚の絵画のような優雅さを醸し出していた。
わざわざ窓ガラス一枚隔てて眺める。
この上なく贅沢なエッフェル塔鑑賞になった。
昼食は家内がブリストル・ホテルの庭園のレストランを予約してくれていた。
この老舗ホテルは、シャンゼリゼ通りからほど近い場所にありながら、超然と佇んで静寂に包まれていた。
給仕スタッフの一人ひとりが、まさにプロフェッショナルの名にふさわしい立ち居振る舞いを見せその動きが小気味よく、ソムリエが勧めてくれるワインは白も赤も絶妙な味わいで、思わずグラスが進んでしまった。
相当なお代に至ったが、パリでしか味わえない至極の時間を思えば当然の金額だと思えた。
午後はセーヌ川沿いを散策し、アレクサンドル3世橋を見物した。
橋の上からはアンヴァリッドのドームが美しく映え、セーヌ川を行き交う観光船とのコントラストが実に絵になった。
そしてわたしたちはまだまだ動くのだった。
次はオペラ座方面へと足を向け、ギャラリー・ラファイエットへと向かった。
地元の美味しいチーズやバターなどを買い求め、家内が服選びに時間をかけている間、私は重い荷物をホテルまで運ぶ役を担った。
夕飯の時刻となって、中華料理店「LA CUISINE DE CHEZMOI」で合流した。
この店は地元の人々で賑わう名店で、多国籍が集う活気ある地域に所在した。
最初から注文する品を家内が選定していた。
イカの炒め物、小籠包、チャーハンいずれも中華の最高峰レベルにあると感じさせた。
日常使いでこんなおいしい店があるなんて。
こうしたこともパリの大きな魅力の一つに数えられるだろう。
この日もパリを味わい尽くした。
すべてが調和を保って共存している。
なんて奥深い街なのだろう。
残り2日。
あといくつパリの魅力とあいまみえることができるだろうか。