ついにメルボルン最後の一日が訪れた。
ひんやりとした朝の空気を感じながら街を歩き、評判の「Two Conversation」でコーヒーを楽しんだ。
深いローストでありながら余韻は爽やかで、メルボルンのカフェ文化の水準の高さを改めて思い知らされた。
すぐ近くに台湾料理店「Decennium」を見つけた。
台湾といえば何といっても朝食。
吸い寄せられるように店へ入った。
注文したお粥と豆乳スープは絶品で、その温もりが体の芯まで行き渡っていくのを感じた。
しっかりと腹を満たした後、滞在中にやり残したことがないよう国立美術館に向かった。
土曜の朝、街全体が休日らしい穏やかでくつろいだ空気に包まれていた。
館内では印象派の作品群が展示されており、二人分で約9,000円という入場料に、日本との物価差を改めて痛感した。
昼食は事前に予約しておいた「Wally's」へ。
トラムで移動する途中、隣のベーカリーに長い行列ができているのが目に入った。
聞けばメルボルン屈指の人気店なのだという。
「Wally's」で料理を待つ間、行列に隙が生じた瞬間を逃さず家内が隣の店に駆け込み、名店「Bread Club」の様々なパンを調達してきてくれた。
「Wally's」は今回の滞在で間違いなくナンバーワンのレストランだった。
ピカピカに手入れされたキッチン、洗練を極めた料理、選りすぐりのワイン、温かく親しみやすいマネージャー、そして店内に響くアナログレコードの優しいジャズ。
すべてが完璧に調和し、心の底から幸せを感じた。
今日の夜にメルボルンを発つと伝えると、マネージャーが気を効かせてくれ、有名なパスタ屋があって食べていけばいいと勧めてくれた。
隣のテーブルの客たちも口を揃えた。
Tipo 00は素晴らしいよ。
それで好意に甘えその場で予約を頼んだ。
食事を終え、移民博物館を訪れた。
閉館時間が迫っていたにも関わらず、スタッフの温かい配慮で一人分の料金で二人とも入館させてくれた。
こうした心配りに、メルボルンの人々の情を再認識することになった。
午後6時、小雨が舞う中「Tipo 00」へ足を向けた。
さすが人気店だけあって店内は満席、賑やかな声が店中に響いていた。
人混みをかき分けてスタッフのところまで行き、予約の件を伝えた。
が、「そんな予約はない、満席だ」と素っ気なくあしらわれたので、面食らった。
心優しいメルボルンであっても、ビジーでノイジーだと邪険になる。
まあ、これも良い経験だと気持ちを切り替え、わたしたちの足は自然とそのあたりにあったベトナム料理店に向いた。
アツアツのフォーをすすって気持ちが落ち着き、これこそが締めくくりにふさわしい。
そう思った。
最後を飾ったささやかなフォーの一杯が心に温かく残り、わたしたちのメルボルン愛はさらに一層深まった。