KORANIKATARU

子らに語る時々日記

空いた手すべてで皿まわす

これではフィフティ・フィフティじゃない。
ちょっと挨拶がてら水向けただけなのに、相手の話が熱を帯び始めてしまった。

書類を受け取って五分程度で引き上げるつもりが、本格的な家庭談議に耳傾けねばならなくなった。

出産を機に女房殿が仕事をやめて専業主婦になったはいいが、夫が仕事で妻が家庭という両輪が並び立ったことはただの一度もなく、家事も子守も夫の背にのっかって、それぞれが輪をまわすなど夢のまた夢、まるで曲芸師、夫が実質全部を切り盛りするという、空いた手すべてで皿まわす息も絶え絶えの状態に陥った。

だから当然土日はなく、趣味のゴルフに参加できるはずもなく、朝から晩まで子を世話し、手が空けば拭き掃除し食器を洗って洗濯を干す。

ひるがって女房殿を見れば、連日昼前まで寝てもまだ睡眠が足らぬと見えて寝転がり、元気になったかと思えば女子校時代に先祖返りしたみたいに昔の仲間と繁華街を練り歩く。

男には分からぬ域の子育てにまつわる気苦労があるのだろう。
最初のうちは文句も言わずおとなしく、言うがままされるがまま従った。

しかし忍従にも限度があった。

エスカレートする一方となって、はたと気付いた。
これではフィフティ・フィフティじゃない。
なんてことなのだ。

朝から晩まで働いて飲み会にも出ず家に帰って家事を強いられ、土日になればフルタイムの家事ロボットとしてのスイッチを入れられる。

ある晴れた日曜日、女房殿が言った。
気晴らしに出掛けてくる。
離乳食は買ってあるので適当に食べさせてね。

平日は会社でこてんぱんにされ、土日は女房にこき使われる。
結婚とは地獄、誰もがそう口を揃える理由がロボットに身をやつしてはじめて分かった。

いまでは離婚という語がまるで自由と同義の爽快さをもって福音のように響く。

わたしはその愚痴を聴き続け、静か心の奥底合掌するのみであった。
世に当たり外れはつきものだ。
ハズレを引けばまさに痛恨、ご愁傷様。

夫に少しでもましな仕事をしてもらえるようにと気働きのきく女性もいれば、その一方、いつのまにやら夫と不毛なパワーゲームをおっ始め全くゲインのないゼロサムゲームの泥沼に引きずり込んでしまうような女性もいる。

長期的に見れば、前者の方が実り多く幸多い人生となるだろう。
互い足をくくって奈落へと道連れとなる後者とは大違いだ。

急斜面を一気呵成に登りきらねばならぬような時期がある。
そんな局面でグダグダ言って足引っ張ってくるような伴侶であれば、いないほうがはるかにましだろう。

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