KORANIKATARU

子らに語る時々日記

同じ時刻と言ってもそこには別の時間が流れていた

同じ時刻と言ってもそこには全く異なる時間が流れていた。

わたしは予定に追われながらクルマを運転していたので、その夜についてはいつにも増して時間の記憶が鮮明だ。
何時にどこにいて、何時にどこに着き、何時にそこを発ったのか、時計のアナログ盤が逐一くっきりと目に浮かぶ。

だから後でニュースを知ったとき、同じ時間帯に目にした光景が記憶のなかを早回しで駆け巡ることになった。
わたしがちょうど奈良の地にあったとき彼は某所沖合で姿を消した。

帰港してみると船に彼の姿がなかったという話がやや奇異に聞こえる。
あの図体、見えなくなれば即座に気づくようなものだろう。

事情は分からないし真相も定かではない。
ただ直感的に、おそらくは逃れようのない、追い詰められたような時間を彼は過ごしていたのだろうと思うだけだ。
人懐っこい彼の表情が浮かび、そして最後に彼を襲ったのであろう恐怖を思う。

わたしがオールディーズを流し口ずさみながら奈良山間の街路をクルマで走っているときのことであっただろう。
同じ日、同じ時刻であっても流れる時間の有り様は千差万別だ。

チンギス・ハンは実は源義経なのだという俗説がある。
日本を追われた義経がモンゴルへと渡って史上最大の帝国を築いたというのだ。

某所沖合で姿を消した後、遠く異国に渡って人生を再スタートさせているのかもしれない彼の様子を思い浮かべてみる。
何の根拠もなくぜひそうあって欲しいと願うような気持ちとなって、一瞬後、そんなわけもないだろうとやはり気が沈む。

そもそも住む世界が異なり彼と親交が深かった訳でもないが、我が事より誰かのことを先に考えるナイスガイであったという印象が強く残っている。
付き合いは浅かったが、存在感は大きかった。
だから彼がいなくなったと思えば寂しいような気持ちが少しは募る。
せめて彼の片鱗だけでも記憶に留めておきたく今日の日記にすることにした。

世は明るく楽しい場所ばかりではない。
一歩間違えるだけで深みに嵌まる。
ダークサイドに消えた彼のことはこの先も忘れない。