メールが入った。
練習が終わったら迎えに来て。
長男からだ。
彼を迎えにいくなど久方ぶりのことである。
夜は晩酌という習慣を変えてから、夜の自由度が格段に広がった。
そそくさ弾む心で身支度をする。
まるでこのあと意中の人とデートでもするかのようである。
事務所を後にしクルマ走らせる。
時間に余裕があったので、途中ガソリンを満タンにし、風呂屋にも寄る。
このところの行きつけは甲子園の浜田温泉。
天然のお湯が肌にじんわり優しくて癖になる。
脱衣所ではゾウさんぶらぶら、おじさんらが日本シリーズに見入っている。
この好カード、かつてのわたしなら見逃すまいとテレビにかじりついたに違いない。
しかしテレビを見なくなって幾年月。
野球中継自体に関心がなくなってしまった。
だから野球については新聞をめくった拍子に目に入る情報くらいしか持ち合わせがない。
知っていることは、大谷が凄い、黒田が引退する、ということくらい。
それでも野球談議に話を合わせることに不自由はない。
つまり大抵の場合、話の内容などどうでもいいというのが会話の本質ということだろう。
言葉が行き来し、最低限のキャッチボールが成立すればいいだけのことなのだ。
風呂を上がって、先を急ぐ。
オーディオを消音にし、窓を開け43号線を西へと進む。
何か前衛的な映画のシーンのよう。
巨大道路の無機的な暗がりのなか、轟々と風が鳴って、明滅するライトがせわしなく行き交う。
無となって突っ走る。
約束の時間は8:30pm。
10分前には到着した。
工場地帯だ。
無人の建造物が立ち並ぶ一角、そこだけが煌々と明るく照らされている。
神戸製鋼灘浜グラウンドの芝生のうえを、若きラガーマンが走り回っている。
練習場は隅々に渡って整備が行き届いている。
ここが練習場なのであるから恵まれた話だ。
何台か迎えのクルマがあって、そこに紛れてしばし待つ。
しかし9時に迫ろうという時間まで彼らはボールを蹴って走っている。
結局、9:20pmまで待つことになった。
二人で帰途につく。
わずか30分の道のりに過ぎないが、男子共有の貴重な時間であることに変わりなく、互い末永く胸に残る一場面であることも間違いない。
だから、家でぼんやり時間を潰すくらいなら、息子の迎えに足を運んでほんの少しでも一緒の時間を過ごす方がはるかにいい。
帰宅すると二男がわたしの部屋で寝入っていた。
部活で疲れたのだろう。
明日も朝練があって5時起床。
二男の寝息をBGMに、わたしは寝そべって本を読む。
平穏な時間、読書がさらにその味わいを深めてくれる。
本を読みつつ、ふと気づく。
いつまでたっても長男が階上にあがってくる気配がない。
本を傍らに置き、下に降りてみる。
リビングのソファでのびたようになって彼はすでに熟睡していた。
あまりにも気持ちよさそうに寝ているので起こすのはためらわれた。
わたしは彼の部屋から毛布を運んで彼にかけた。
この場面については共有ではなくわたし単独の思い出となった。