気付いている人は少なくないだろう。
西宮わしお耳鼻咽喉科の待合室に置いてあるリーフレットはすべてオリジナルな制作物である。
製薬会社などが大量に刷って頒布する冊子等とは異なり、来院者一人一人に手にとってもらうため作られているのでロットも大きくない。
場所は、大阪市内の美術専門学校。
毎月一回、鷲尾院長が足を運び現役の学生らを交えて制作物についての打ち合わせが行われる。
さながら大学研究室のゼミといった光景である。
はじまってかれこれ3年になる。
この日の打ち合わせは夕刻6:30スタート。
手土産のケーキを持って鷲尾院長が現れた。
新年度であるから新入生の顔もある。
医学的な知識はみな素人レベル。
来院者に向け伝えたいメッセージについて、全員がそのイメージも含め共有できるよう、院長が様々な雑談を交えながら説明していく。
素人目線だからこそ伝わる。
専門家の言葉は往々にしてその専門性のなかに閉じて、一般の人に届かない。
その一方通行を双方向にするうえで、美術学校の生徒らの力が不可欠、院長はそう考えた。
全体構成はもちろん、一つの絵、一つの言葉といった細部まで丁寧に吟味され生み出されるのであるから、どの成果物も我が子のように可愛い。
それらがピカピカ印刷されて、わしお耳鼻咽喉科の待合室に置かれ来院者の手に取られるのを待つことになる。
いまならテーマは花粉症。
そして、夏かぜ、秋アレルギー、インフルエンザ。
季節ごと、特に子育てする母親にとって有用なリーフレット群が継続的に姿を現す。
クリニックを訪れると、感じのよい受付スタッフにも目が留まるであろうが、それらリーフレットにも目を引かれることになるだろう。
打ち合わせを終え電車に乗って桃谷駅で降りた。
向かうは鮨こいき。
珠玉の鮨を堪能しつつ、大将の一日について話を伺う。
一日16時間は厨房で過ごすのだという。
その大半が仕込みに費やされる。
朝6時には市場で仕入れを始める。
8時には店に入って、そこからひたすら仕込み。
営業を終え夜12時に店を閉める際にも明日の支度を整える。
鮨にすべてを捧げているようなものである。
そのような舞台裏を知り、ただでさえ美味しい鮨に、更にしみじみとした味わいが付加された。
いい鮨を食すのであれば、鮨こいき。
寿司好きの岡本くんにそう伝えておかなくてはならない。
この夜、わたしは鮨こいきの大将の職人魂に触れ、鷲尾院長の真摯を目の当たりにし、ひとりの職業者として大いに触発された。
いい仕事人はいい仕事人のいる場に集ってくる。
次回、飲み会は鮨こいきで決まりだろう。


