水曜日、大阪の美術学校にて毎月恒例のミーティングが行われた。
学生らで編成されるデザインビジネスチームとの打ち合わせであり、その短縮語であるデビに鷲尾院長の頭文字を冠し会議名を「わしデビ」という。
学生らの自由で斬新な発想に期待を寄せてはじまって、かれこれ4年ほど経過するだろうか。
これまでに花粉症、インフルエンザ、夏風邪、秋アレルギーといったテーマごとのリーフレットやカレンダーといった来院者向けの頒布物がこの場から誕生していった。
正しく分かりやすい情報提供がクリニックの役割。
そう考える鷲尾院長は、わしお耳鼻咽喉科のウェブサイトにおいて詳細な医療情報を発信し、アナログ的な補完としてひと目みて分かりよいそれら頒布物を活用する。
季節が巡るごと耳鼻咽喉科が果たす役割が移り変わるので、それに合わせホームページの内容は更新され、来院者に手渡すリーフレットの内容にも継続的に改良が加えられる。
なおかつ新作の企画も絶えることがない。
毎回、鷲尾院長が学生に対し耳鼻咽喉科のトピックについて和やか雑談し、そこからテーマが抽出され、対話を通じ成果物が形作られていく。
その様子を横でみるわたしは、だからこの会議を「わしデビ」ではなく「わしゼミ」と呼んでいる。
先生を学生が囲み、学生がそこから学んで何かを生み出すのであるから、まさしくゼミナールというのが相応しいだろう。
会議後は男二人で飯を食う。
この水曜日は焼鳥を食べようとなって阪急グランドビルにある酉文を訪れた。
小皿に唐辛子を添える際、沖縄の島唐辛子を取り寄せたという話が鷲尾院長から出て、辛いもの好きのわたしは関心惹かれその味について根掘り葉掘り食い下がるものだから、この夜の主題は唐辛子となった。
ねだった訳ではなかったが話の行きがかり上、希少な唐辛子を一瓶譲ってもらえることになって嬉しく、しかしもらうばかりでは申し訳ないのでうちにストックある京都長文堂の唐辛子を引き換えにしようと思って長文堂の青海苔風味の唐辛子の美味しさについてわたしは語った。
阪急グランドビルの28階、唐辛子自身の思惑をよそにトレードが決まったようなものである。
そして交換によって全体の価値が増すというのはこの場合にもあてはまり、へえどれどれと両家の皆が喜ぶことになる、多分。
それにまた男同士でする物々交換が童心に返るみたいで新鮮に感じられ、こういう小さなコミュニケーションが絆を強めていくのだとハイボールをお代わりしつつしみじみと感じた。