淡路島で業務があった。
行きは家内に運転を頼んだ。
阪神高速が混み合う前に家を出て、澄んだ空気の残るなかクルマは御食国へとひた走った。
助手席に座って、朝9時半、ズームで会議に臨んだ。
視線を上げると空は晴れ渡ってぴかぴかで、いつもよりやりとりが弾んだ。
終えた頃、左右に淡路島の海が拓け、同時に家内の二万語が再開された。
ほんの少し窓を開けてみた。
ひんやりとした風が吹き込んでなんとも気持ちがいい。
くっきりとした青に染まる海と空に囲まれて、何気ない会話もまた印象深く、流れる景色の色合いに溶け込んでいった。
洲本に到着しイオンにクルマを停めた。
いい感じのサンドイッチ屋があるとのことで家内に先導されて店へと歩いた。
それらしい店に入って席についたがその店にサンドイッチはなかった。
どうやら目当ての店は数軒先にあって、あてが外れた。
いまさら移動するのも気が引けて、サンドイッチはあとでテイクアウトすることにした。
朝食を済ませ、そこらをぶらり歩いた。
昆布と鰹節の店があり、量り売りだったから旅情がかき立てられた。
店番のお婆さんと会話して思った。
まるで「遠くへ行きたい」の一シーンではないか。
老舗名店でオレンジスティックを買い求めると、おみやげだと言って袋入りのオレンジを分けてくれその心遣いに旅路にあるとの感が強まった。
ちらっと覗いた陶器屋にはアスティエのお香が取り揃えられていた。
聞けば、そもそも淡路島が産地であり逆輸入された品なのだという。
ああなるほど、淡路島は世界に冠たる香りの島なのだった。
そんな「遠くへ行きたい」といった場面の数々に身をおいてから業務先へと移動した。
わたしが業務に勤しむ間、家内は洲本周辺をめぐって買い物に励んだ。
魚介、野菜、米など土地の恵みを満載し、そのどっさり感がこの日の充実度を物語っていた。
コーヒーを買ってその香りに包まれて、帰りはわたしがハンドルを握った。
旅慣れると風通しがよくなって日常も旅になる。
そんな気づきが、帰路の空気にしっくりと馴染んだ。
何でもない一日が、こうしてじんわりと心に残る。
そして、思い出がひとつ増えるたび、人生には深みと彩りが加わっていくのだった。