些細なことは些細なことで解決する。
この日、明石からの帰途、新長田で途中下車した。
ひさしぶりに平壌冷麺を訪れた。
焼肉のメニューを上から順に注文し、同時に持ち帰り用の器も頼んだ。
一枚一枚、丁寧に焼きながら、半分は食べ、半分は器に収めていった。
日頃からおいしいものを食べ、肉もかなり上等なものを口にしている。
が、ここの味が一番。
味覚の波長がぴったり合って、おいしさが心の奥深くまでしっかりと届く。
これは家内も同様で、わたしたちは「味」でしっかりと結びつけられている。
だから、エルメスやカルティエより平壌冷麺の焼肉、ということになる。
つまりこのときわたしは宝箱を準備しているも同然と言えた。
最後は冷麺で締めくくり、持ち帰り用の焼肉丼の肉大盛りを頼んだ。
小雨の降り出したなかエコバックに焼肉と焼肉丼を大切に入れ型崩れせぬよう慎重に運んだ。
なにせこれは宝箱。
雑に扱っていいものではなかった。
帰宅し、黙って台所に宝箱を置いた。
その瞬間、家内の目が輝くのが分かった。
このサプライズは、あまりに効果てきめんだった。
先日訪れた寿司屋に声の大きいおばさんがいた。
それが原因でわたしたちは引き裂かれ、その余波で、本来であればこの夜訪れるはずだった芦屋の永来権(えらごん)をキャンセルする羽目になった。
事態は深刻だったが、ここ一番、わたしたちには平壌冷麺が存在する。
こうして事は平和に着地し、元の鞘に収まった。