寸暇を惜しんで働く日が続いている。
雨の降りしきる土曜日、自室にこもって書類作業に没頭した。
家内は家内で床を磨き、家事に黙々と取り組んでいた。
雨音がふたりの時間のBGMとなり、日常の素朴さを引き立たせていた。
この一週間はまったくジムに行けなかった。
週末こそはと運動の時間を確保することにした。
午後になって一区切りつけ、家内の運転でジムへ向かった。
雨天のためかジムは人もまばら。
落ち着いて身体を追い込むことができた。
サウナから出ると夕刻。
空腹を覚え、今夜は鍋にしようと買い出しに出かけた。
混雑が予想されるガーデンズを避け、芦屋へとクルマを走らせた。
豆腐の「やまいち」に寄った後、ひさびさ「ビッグ・ビーンズ」を訪れた。
駐車場には高級車がずらりと並んでいた。
芦屋ならではの空気が濃厚に漂っていた。
ジム上がりでわたしはサンダルにスウェット、よれたTシャツという装い。
家内も似たような格好だった。
最初は、異物感ある自身を面白がろうとした。
が、無理だった。
あまりに芦屋の方々の身なりがきちんとしていたものだから、自分たちの貧相さが際立って、いたたまれないような気持ちになった。
さっさと必要なものをカゴに詰め込んでいった。
チーズやバターなどさすがの品揃え、まるでボンマルシェではないかとわたしたちは気後れしつつも商品のレベルに舌を巻き、あれもこれもと手に取っていった。
ワインについては、先日訪れたフランスで味を覚え、このところアルザスものに凝っている。
店員に尋ねると手頃な棚に案内された。
もう少し上のものがないかと聞くと、違う棚に連れられた。
そこには阪急や阪神百貨店でも見かけない銘柄がずらりと並んでいて、心が躍った。
身の丈に合わせ3,000円のを2本、せっかくだからと1,500円のお得用を1本、計3本を買い求めることにした。
レジに向かうと、見覚えのある顔が視界に入った。
かつてビッグ・ビーンズは、大阪・野田の下町に所在していた。
当時、事務所が近くにあって、わたしはしょっちゅう買い物に利用していた。
ビッグ・ビーンズの社長夫人と思しき方が現場で働いていて、自転車を整理したりワインの説明をしたり、そんな姿をみて感心したものだった。
で、いま芦屋に移転しても同様。
ご夫人はパンを並べレジに立ち、以前と変わらず働いているのだった。
向こうはこちらの顔など覚えていないだろうが、場違いな下町風情が紛れ込んだみたいなものだったから、目についたに違いない。
会計を済ませ、逃げるように西宮へと引き返した。
女房と夕飯の鍋を囲みながら、6月の予定を一つ決めた。
ぐずぐずしていると仕事で埋まる。
先に予定を入れてしまうのが賢明だった。
近場への小旅行を企画し、飛行機とホテルを予約した。
たったそれだけでのことで心が満ちた。
こうした小さな楽しみを糧に夫婦でふたり。
地味に地道に、見合った世界で暮らしていく。