最終日となった滞在三日目も、目覚めてすぐ息子とともにプールで泳ぎ一日をスタートさせた。
朝食後は三者三様、別行動とした。
二年前のクリスマス・イブの日、博多の寿司屋「たつ庄」で韓国人カップルと隣り合った。
年若い女子と家内は意気投合し、以降、連絡を取り合いこの日KITHで会うという。
二男はホンデ方面へと足を向け服を選ぶとのこと。
ソウルはショッピングスポットが目白押しなのだそうだ。
それでわたしはひとり明洞界隈をぶらついた。
前日は強烈な暑さに見舞われたが、この日は爽快。
秋の空気が漂う街路は歩くのに最適だった。
午後になって部屋で家族が合流し、最後に昼を一緒に食べることにした。
ホテルのコンシェルジュに聞くと、階下の中華「ホンヨン」は予約でいっぱいだとのことだった。
が、それで怯む家内ではなかった。
店へと直接足を運んで交渉し、見事午後2時の空席を確保した。
設えも豪華な待合で案内されるのを待っていると一人の店員が話しかけてきた。
2週間限定の研修で京都ウェスティンから派遣されているのだと青年は言った。
英語も韓国語もできない。
かといって日本人客は皆無。
放り込まれた職場は彼にとって修羅場と化した。
だから日本人客と見れば救いの神が現れたも同然。
日本人ならお任せあれ。
彼の面目躍如。
待ってましたとばかり彼はわたしたちにあれこれ話しかけてきたのだった。
世間は狭く、ほどなく共通の人物が知り合いだと分かった。
これも何かの縁、今度は京都でよろしくとの話になった。
高級店であっても注文するのはとてもポピュラーな中華のラインナップで、それを家族でつつき合った。
これが家族のいいところ。
何ら飾ることなく同じ皿をつつき合って、それで平穏に時が流れて満たされる。
食事を終えてチェックアウトを済ませ、まもなくタクシーがやってきた。
ターミナル1で二人と別れ、わたしはひとりターミナル2でタックスリファンドを済ませ出国ロビーで搭乗の時間を待った。
昨夜、家内の妹分が家族写真を見せてくれた。
祖父母から兄弟姉妹、姪っ子、甥っ子まで勢揃いする大家族写真で、定期的に集まって写真を撮るのだと彼女は言った。
写真に映るみなの表情がとてもよく、その顔ぶれを思い出しつつなんとも羨ましい気持ちになった。
孫ができればうちも集合写真をしょっちゅう撮ろう。
そう思い立つとまもなく頭の中に浮かんでいた妹分の家族の顔ぶれが、わたしたち家族の顔へと上書きされていった。
家族の顔を思い浮かべる。
たったそれだけのことで、平穏に時が流れて満たされた。