女房が手伝いにくるといつにも増して事務所は食べ物であふれることになる。
人によくすることが生きがいの家内であるから相手が事務所メンバーとなればその手厚さは半端ではない。
あれこれ振る舞う様子を横目に、この日わたしは近場の事業所をまわった。
居場所が外。
いつしかそうなった。
仕事スタイルの変遷を思い浮かべてみる。
事務所で長い時間を過ごしていた往時の記憶などすっかり薄れてしまった。
昔からずっとこう。
そう思えるくらい外回りが板についてきたということだろう。
わたしは外をまわって集客に注力する。
そんな役割を思って不思議の念にとらえられた。
営業なんてできやしない、まっぴらごめん。
若い頃はそう思っていた。
それがいまや営業こそ天職だと自信さえ覚えるのであるから返す返すも不思議としか言いようがない。
まあ、若い頃は自分の本質を取り違えるのがいたって普通のことなのだろう。
冷え込む夜、帰宅すると家内が鍋の支度に取り掛かっていた。
この日はクエ鍋だった。
前菜のカツオにたっぷりとネギを落として賞味してから鍋に取り掛かった。
この世にクエほどおいしいものはない。
女房とそう頷き合って食べるから、美味しさはいや増しとなった。
そして思い浮かぶのは息子たちのことで、年末に向けクエも取り寄せようとの結論に至るのだった。
デザートのこみつは今が旬で、これほど季節を感じさせる果物もそうそうない。
今年もあと数えるほど。
向き合う女房との間で増幅し、幸福感もまた増すばかりとなった。



