こんなに分かりやすい待ち合わせ場所もそうそうないだろう。
街のどこからでもその尖塔が視界に入る。
高さ142メートル。
かつて世界一の高さを誇ったノートルダム大聖堂を見上げつつ、わたしたちはエクスカージョン主催者から声がかかるのを待った。
朝9時、ガイドを務めるカルロスが目印の旗を掲げ、わたしたちの他、メキシコ、スペイン、アメリカ人の夫婦が集まった。
簡単に挨拶し合ってバンに乗り込んだ。
最初の行き先はコルマールだった。
市街の真ん中を運河が流れ、プチ・ベニスと呼ばれるだけあってまあ美しい。
中世からの建築物が立ち並び、時間をも移動したような感覚に捉えられた。
市場の中にあるカフェで飲んだビールが鮮烈だった。
透明感ある水と清涼な空気がビールの味に反映されている。
そう感じた。
続いてエギスハイム。
アルザスワイン発祥の地であり、フランスで最も美しい村とも言われる。
石造りの家が円形に連なり、それを見渡すように教会が静か佇んでいる。
まさしくここも絵柄としては中世だった。
そして次の街はリクヴィルでここで昼食をとった。
地元のレストランで、アルザスのワインと郷土料理を楽しんだ。
土地の豊かさが味に凝縮されているのだろう、ワインの香りもふくよかに、わたしたちの表情もふんわりふっくらほころんだ。
ツアーの最終地点はオー・ケニグスブール城だった。
400メートルほどの丘の上にそびえる勇姿を遠くに眺め、クルマで走ると案外近く、眼前に迫ったその威容に更に息を呑んだ。
塔の上からは、ブドウ畑が続く風景を一望でき、その先にライン川、ドイツ国境の山並みまで見渡せ、その眺望がドイツの影響を色濃く受けたアルザスの複雑な歴史を雄弁に物語っていた。
壮大な時間旅行を終え、夕刻6時、ストラスブールに帰還した。
店が閉まる前にとそのまま真っ直ぐマックスマーラーを訪れ、家内が目をつけていたニットを2着購入した。
その足で、前夜キャンセルしていたL'OIGNON(ロニョン)へ向かった。
地元で人気のビストロで大盛況。
必ず来たほうがいい、そう助言してくれたお店の人に感謝した。
どの一品も、アルザスの伝統料理をベースにした丁寧な仕上がりで、ワインとの相性も抜群だった。
食事を終え、ホテルまでぶらり歩いてチェックインした。
かつては王侯貴族も泊まったという老舗ホテルで、重厚な木組みの外観と中庭、落ち着いた内装が目を引いた。
わたしたちが案内されたのはホテルに2室しかないというデラックスルームだった。
部屋に入って家内が声をあげた。
広々とした部屋に一気に心が解き放たれて、気持ちが安らいだ。
翌日はメーデーで祝日。
そんな休日前の気分にひたって、わたしたちはゆっくりのんびり旅の疲れを癒やして過ごした。