右端のレーンは最速のツワモノらが泳ぐ。
まるでシャーク。
とてもそんな連中のなかに混ざる勇気はない。
この日、そのレーンだけが無人だった。
ほかは2、3人。
鬼の居ぬ間とばかり、わたしはそこで泳ぐことにした。
レーンを独占して快適だが、不安がよぎる。
サメのような勢いで水を切る連中がいまにも現れるのではないか。
そのときになって移動すればいいのだが、そんな事態に直面する前にさっさと移動したいとの気持ちが生じる。
自分の心の動きを眺めつつ泳いで、実生活でも同じだと感じた。
あまり付き合いたくない。
そう思う客がいる。
さっさと取引を断ろうと思いつつ、逡巡している。
嫌な相手だが、今の段階で差し迫ったことが起こっている訳ではない。
多少なり売上にも貢献してくれている。
であれば、何もこっちから急いで断ることはないだろう。
シャーク化現象が見られてからでも対処としては遅くない。
プールの中でより一層、自分の心の動きが明瞭に理解できる。
泳ぎながら自分を知る。
そうしてまた日常へと戻っていく。
わたしにとってプールは人生を学ぶ場でもあるのだった。
結局この日、泳ぎ終えるまでシャークは姿を現さなかった。