いろいろと尽力したい。
そういう思いで一貫し、だから簡単に仕事を投げ出すことはない。
その献身とタフネスがうちの事務所の売りだろう。
だからこれまで顧問契約を断れたことはもちろん、こちらから断ったことも一切ない。
もちろん、反社会的レベルな要求があった場合については関係を断つのが当然の帰結であるから、「断った」という範疇には含めていない。
今年に入って契約した相手が、「なんちゃってシャーク」といったレベルのいちゃもん屋だった。
いちゃもんをつければ優位に立てる。
力の争奪戦である現世において、そうやって彼は自身の陣地を拡大させてきたのだろう。
周囲も「お代さえいただければ」とのスタンスで領土を喜んで明け渡してきたに違いない。
しかし、うちはそれら周囲とは性質を異にする。
仕事への最低限の敬意のない相手と付き合ういわれは全くない。
今回、どうでもよすぎる些細なことで職員がいちゃもんを受け、それが続いた。
で、わたしにまで軽く噛みついてきたから、その瞬間。
強い勢いで顧問契約の終了を告げた。
向こうは、噛めばわたしが平身低頭、ゴマでも擦り始めると思っていたのだろう。
電話を通じてであったが、目が点になったといった様子が窺えた。
事務所でみなが注視するなか、毅然とした態度を取った。
が、それで「言ってやった」と気分爽快になる訳ではない。
尽力する。
そこにうちの事務所の喜びがある。
だから、後味の悪さに耐え難いような気持ちになった。
で、同時に改めて思ったのだった。
うちはほんとうにいいお客さんに恵まれている。
感謝してもらえ、それが何よりの報酬。
やりがいに満ち、なんて幸せなことなのだろう。
今回、なんちゃってシャークと相まみえ、そう深く知ることができた。
気分が悪いからさっさと事務所を後にした。
帰り道、心身を整えようとサウナに寄った。
汗とともに悪念もすっかり排出し、さあ、家へと帰ろうとしたとき、女房からメッセージが届いた。
わびさびの席が予約できた、とのことだった。
それで重ね重ね痛感したのだった。
川向うで跋扈する、なんちゃってシャークのおかげ。
わたしは「こちら側」にいて、大切なものに囲まれている。
それをシャークが逆照射してくれたも同然だった。
暗く波立つ川を頭に浮かべ、これからも誠実に芯の通った仕事を重ね、こちら側の光を守っていこう、そう思った。