人の縁というのは、本当に不思議なものである。
手に取って「どれどれ」とためつすがめつできるような実体はなくても、確かにそこに存在していて、思いもしなかった形で自分の人生に入り込んでくる。
遠い向こう側にいるだけの人たちがいた。
「こういう人がいる」と単に伝え聞くだけの人々で、まるで物語の登場人物のような存在だった。
何かの食事会でちらりとお目にかかる。
言葉少なに挨拶を交わし、そのあとは何もない。
交流があるのかないのか分からないような、薄い関係が数年続く。
そんな希薄な縁がふとした拍子に手繰り寄せられ結び目が生まれる。
そのままその縁の糸がくっきりと色濃いものへと変貌していく。
気づけば旧知であったかのような関係になって、何気ない日常を語り合う間柄に至る。
人生の綾は、予測しうる領域をはるかに超えて広くて深い。
思惑とは全く無関係に、些細な縁があちこちで降って湧いて、語るべきエビソードが一つまた一つと増えていく。
人間に生まれて良かった。
振り返って胸に生じるのはそんな感慨で、すべてが奇跡なのだとそのパノラマに感じ入る。
まだまだ序の口、生きている限り生まれる縁は尽きることがない。
この先も思いがけない縁が芽を出し生い茂る。
歳を重ねるとその動きが早回しで見える。
一度は人間になって縁の恩恵を味わい尽くす。
宇宙の意図がそこに凝縮されているように思える。