早慶の意地と誇りがぶつかり合う。
神宮球場はすでに独特の熱気に包まれていた。
人混みを縫った。
老若男女が詰めかけ、活気に満ちていた。
一塁側の三番入口へと急いだ。
そこに変わらぬ顔ぶれが待っていた。
「やあ」と手を挙げ、ツジくんからチケットを受け取った。
続いてイマギが現れ、ペソが合流し、タイソンが奥さんを伴ってやってきた。
今回、ヨシムラが不参加なのが唯一の心残りだが、いつものメンバーが揃って時計の針が数十年前へと巻き戻った。
それにしても、容赦のない日差しだった。
空には雲ひとつない。
太陽の独壇場だった。
家内に言われるまま長袖を着込み、帽子を持参した。
正解だった。
応援席に腰を下ろすと、ほどなくして早慶の応援合戦が始まった。
慶應のチアリーダーたちが一塁側に挨拶にやってきた。
起立し皆で拍手し迎えた。
若き血が流れ、やがて都の西北が鳴り響いた。
敵味方を超え神宮全体がひとつの祝祭の場になっていた。
肩を組む。
見知らぬ人同士であっても肩を組む。
タイソンの細君はなんのためらいもなく隣席の知らない人の肩へ腕を回していた。
さすが。
彼の伴侶だけのことはある。
炎天下。
青空の下。
歌って踊って、声を出す。
日頃眠りこけていた内なる野生が、次第に目を覚ました。
命に火が灯った。
始球式に登場したのは、一人の小さな少年だった。
草間くん。
慶應野球部の一員だと紹介されていた。
調べると長期療養を余儀なくされている少年だとわかった。
支援団体が彼の願いを叶え、彼は正式な部員としてこのマウンドに立っているのだった。
彼にとって、この神宮のマウンドは人生の晴れ舞台にほかならない。
一球を投じ終え、選手たちが作った花道を小さな身体が駆け抜けていく。
その姿に、胸の奥がじんと熱くなった。
スポーツは勝敗だけではない。
誰かの人生を照らす舞台にもなる。
神宮の杜には、無数の命に火が灯っていた。