1
江坂駅併設の駐車場にクルマを停める。
ちょうど昼時、肉を食べようと思い立つ。
目に入った肉バル・エビスカフェに入る。
巨漢の原始人が両手で鷲掴みするみたいに分厚い肉を屠る。
そのようなイメージで臨んだが、着席しランチメニューしか注文できないと知った。
荒ぶる気勢の大男は静か脳裏からフェイドアウトしていった。
落胆しつつ、ステーキランチを頼み、牛ロースカツランチの牛ロースカツを追加する。
姿現したステーキは程よくレアな焼き加減で柔らかくジューシー。
なかなか美味い。
牛ロースカツはステーキをカツ風に揚げてあってこれもまたとろける旨さ。
ご飯とポテトには手を付けず交互に頬張る。
物足りなくないですか。
大盛りご飯を勢いよくかき込むツバメ君が言う。
白飯こそがこの地上で最高美味の称号に値する。
準美味には蕎麦がきてパスタがきてうどんがくる。
パンは忘れてもラーメンについても忘れてはならないであろう。
でも、意識をそらすことは可能なのだ。
あれほど恋した人の面影でさえ他の存在に注意を向ければ上書きされていく。
ステーキを食べそのうえ牛ロースカツまでお腹いっぱい食べることができる。
これで十分満足とならない方がおかしい。
そのようになっていくのだよ。
2
ツバメ君もまもなく父となる。
うちの子らが産声上げた当時について私は語る。
語りだすと止まらない。
何度も日記に書いているが、細部にわたって記憶は鮮明で薄れることがない。
生まれて可愛く、育って可愛く、中学生になってまで可愛い。
この分で行けば、息子らが還暦を迎えてまで今なお可愛いとなるのだろう。
生涯に渡って「愛い奴」となる者とのお目見えだ。
この先、時間の流れを子が彩っていくことになる。
なんとめでたい事だろう。
3
吹田から都島通りを伝ってフォーユー薬局前を過ぎる。
大阪谷町でクルマを降り、二手に分かれる。
用事を済ませ家路についたのは午後6時。
二号線の渋滞がはける頃合いであってちょうどいい。
信号待ちの折り、HDDで今宵のナンバーを物色する。
無作為でラインナップをスクロールしているとディスプレイにユーミンが表示された。
ユーミンベストをダウンロードしHDDに搭載した日付に目が留まる。
2012年12月18日。
三年前のクリスマスの頃。
「恋人はサンタクロース」を子に聴かせようと思ってダウンロードしたのだが、あにはからんや家内も喜び、クルマに乗った家内からユーミンやんかいさとメールがあったことを思い出す。
子らも気に入って、何度も何度も繰り返し聴くことになった。
懐かしく、ユーミンを流しつつクルマを走らせる。
雨降る夜の二号線にユーミンがとてもよく馴染む。
2012年12月18日と言えば、長男の受験本番一ヶ月前でもあった。
まさに連日、休むことなく上六の塾に通っていた頃のことを思い出し感慨にひたる。
いま長男が聴く曲のなかにユーミンはないだろうが、もし耳にすれば飛び出す絵本のページをめくったみたいに当時の記憶がライブで蘇ることだろう。
4
帰宅すると長男がちょうど出かけるタイミングであった。
あの頃、小クマちゃんのようであった風貌が、見る影もなく今はいっぱし小洒落た青年となりつつある。
ごつく筋肉質な背中をたたいて送り出す。
階上、二男と夕飯。
今日の出来事について話し、ユーミンについて話し、二男は二男で入試直前にヘビロテした曲たちがあってそれらについて話す。
二男は部活の話をしてくれる。
明日は高校生の試合の応援に行くのだという。
高校生と言えば私たち中年からすれば子ども子どもにすぎないが中一からすればいぶし銀に渋い遥か先の年上に映るようである。
その活躍を明日目のあたりにできる。
おらが村の精鋭に声援送り眩しいように見るのであろう二男の様子が目に浮かぶ。
数学の復習テストについて家内から一言ある。
復習だから習った問題の数字が変わるだけ。
どうやら家内はそう思っている。
だから百点取るのが当たり前。
この学校でそんな簡単なテストなどあるはずがない。
まるでツイストするかのごとく、ひとひねりふたひねりは当たり前。
二男と顔を見合わせこっそり笑った。