ようやく冬。
そう感じさせるほどに冷え込んだ11月終盤の火曜夕刻、天神橋筋商店街を北上し福効医院を訪れた。
診察がまもなく終わるというところ。
インフルエンザの予防接種を受け終えた小さな少年少女が待合室でクジをひく。
注射に耐えたご褒美なのだという。
下町の駄菓子屋などにあったくじ引きで、大きな台紙に幾つもの景品がぶらさがっている。
目にするだけで懐かしく楽しい。
少年少女はともに外れを引いたようであった。
が、子どもだから賞品としてもらったカエルのおもちゃを喜んだ。
で、いきなり待合室のカーペットの上で二人揃って寝転んでカエルで遊び始めたものだから微笑ましい。
なんと心温まる光景なのだろう。
目に焼き付いて、少年少女の前途洋々を祈るような気持ちになって、ふと思う。
ここで日夜診療に携わる院長は、毎日そのような気持ちで過ごしているに違いない。
そう思って院長の姿を思い浮かべてみれば、結構なガタイで大船に乗ったも同然。
頼り甲斐抜群の男と言っていいだろう。
業務終了後、まずは一杯飲もうとなって、バー・バンビで一息ついて、それから飯屋を探すことにした。
天六いんちょの頭に最初に閃いた寿司丸峯はあいにく満杯。
予約せずこの人気店の席にありつこうなど甘過ぎる考えのようだった。
ではどこで食べようかと思案しつつ天六界隈を男二人でぶらついて、天六いんちょのひらめきを待った。
まもなく、あ、そうそうと啓示が降りた。
わたしは後に付き従い、『ご馳走ね音』へと続く階段を上がった。
カウンターに座って日本酒で乾杯。
出汁がいいから汁物の料理が実に美味しく心温まり、天ぷらも風味良く味わい深くてお酒が進む。
交わす会話はほとんどが子どものこと。
三遊間を鋭く破った息子のヒットについて聞き、ボーリング場で18ゲームも息子としたといった話を聞き、娘が作ったクレープの話に続いては、塾にも行かないのに幼少の頃から天才ぶりを発揮する姪っ子の中学受験の話になり、それら現在進行の話に思い出も織り混ざり、話は尽きず、それがまた楽しい。
子を持つ親なら誰だってそうであろうが、何が楽しいといって子どもの話ほど楽しいものはない。
心なごんで癒やされて、子の存在自体が未来そのものであるから、胸膨らんで、自ずと気力も湧いて出てくる。
この歳になると様々な役回りが増え、ありのままの個として過ごせる時間は限られてくる。
大半の時間を職業者として過ごし親として過ごしその他もろもろの役割の者として過ごす。
しかし、友人とこうして酒を飲み、子ども談義に花を咲かせているときは、まごうことなく素の個人に立ち返っていると言えるだろう。
おいしい料理で腹は膨れて、いい話盛りだくさんで胸もいっぱいに満たされた。
たまにはこんな時間が必要不可欠。
じゃあね、と手を振り、賑わいの度を増す天六の一角で別れた。
次に会う約束など何もしていないが、どのみちまたすぐ顔を合わすことになるだろう。

