夕刻、急に冷え込み雨脚も強まった。
どこかに出かけようと家内と話し合っていたが、動く気は急速に萎んでいった。
雨降る冬の夕刻。
家の居心地良さに勝る場所はない。
床暖効いて暖かなリビングで、わたしたちは録画してあった映画『パパとムスメの7日間』を見始めた。
しかし、雨音が睡魔を誘い結局夫婦ふたりで居眠りしただけであった。
気づけばまもなく夜という時間帯。
寝入ってしまう訳にはいかなかった。
互い声を掛け合い励まし合って起き上がり、せめて買物だけは済ませようとクルマに乗った。
5分後にはガーデンズ。
クルマを停めてまずはカルディに寄り、子らのおやつとしてチーズ各種とタコスチップとそのソースを調達した。
彼らはかっぱえびせんやおにぎりせんべいやポテトチップスなどを食べない。
タコスチップにチーズを載せ、それを温めてからホットなタコスソースにつけて食べる。
買物は自ずと息子のそういった流儀に沿うものとなる。
続いては西宮阪急の食品売場。
カゴ2つを上下に載せカートを押して家内の後に続く。
子らは食べ盛り。
カゴひとつではとても足りない。
この日わたしたちはついていた。
なんとズワイガニが3割引。
ひと目見た瞬間、今夜はこれだろうと家内と意見が一致した。
そしてカツオとタコをカニの両脇固めるバックダンサーに選んだ。
子らからリクエストのあった海鮮丼も忘れない。
いつもなら他に何か要るものはと連絡をとるが、この日は午後から一向に電話が繋がらなかった。
大々的な通信障害で携帯が使えないなど慌てふためくほど不便なはずが、なぜなのだろう、気持ちは至って平穏だった。
電話がどこからもかかってこない。
これは案外、幸せな状態なのかもしれなかった。
たまにこんなときがあってもいい。
夫婦でこれもまた意見が一致した。
帰宅し風呂を済ませて、夕飯。
上手な食べ方を家内に教わりつつ格闘の末ありつくカニの身の甘いことといったらなかった。
タコとトマトがとても良く合って、カツオのたたきも実に新鮮で美味しかった。
食後は、久々に耳つぼマッサを家内に頼んだ。
アロマの香りがすっとカラダに染み込んでそれだけで癒やされた。
肩から首筋、そして頭部へとマッサージが進み、仕上げは耳つぼ。
疲労が蓄積していたのかいつにも増して耳つぼへの刺激を痛く感じるが、この痛みは善き痛み。
ほどなくカラダに平穏がもたらされる痛みと知っているので、耐えて身を任せた。
次第、耳から発した温かみが全身に行き渡っていく。
揉もうが叩こうが重く固くこわばったままだった肩や首が、ふんわり柔らかにときほぐされ、カラダ全体が軽く感じられるようになった。
そのとき二男が家に戻った。
期末試験前夜なので手軽に食べられるよう夜食に海鮮丼と蓬莱の豚まんを用意してあったが、家内は今から味噌汁を作るという。
冷え込む夜、温かい汁物のありやなしやで天地の差。
こういったところでひと手間惜しまないのが家内の美質の一つと言えた。
ヘッドマッサの続きを待ちつつ、家内と二男の会話を耳にする。
だんだんその声が遠のいていき、懐かしい情景が目に浮かぶ。
そこにまだ幼い頃の弟や妹らの姿が見えた。
わたしはホカホカカーペットのうえ、すでに平穏な眠りのなかにあった。