空港を出てタクシー乗り場に向かった。
エディンバラには初冬の空気が漂っていて、その清涼さに旅情が強く刺激された。
こうした空気との出合いもまた旅の醍醐味だろう。
運転手はロンドンからエディンバラに移って21年になるのだという。
人がよく気さくで、道でも尋ねようものならそれをきっかけに彼らはその人生について語り出す。
運転手はエディンバラの人の特質についてそう説明してくれた。
運転手の人生について耳を傾けながら、わたしたちは車窓を流れるエディンバラの街の美しさに見惚れていた。
だからホテルに着いてすぐ街へと繰り出した。
日曜晴天の街は穏やかな賑わいに溢れ、人々が安らいで見えた。
至る所に歴史的建造物が凛々しく並び立ち、それを背景にバスやトラムが走り視界の全方位が絵になって心に沁み入り、はるばるやってきた甲斐があったとわたしたちは思った。
結局エディンバラにおいても食事する場所は家内が探して予約も済ませてくれていた。
この日、夕飯の場所として訪れたのはロンドンでも名高いインド料理のディシュームだった。
長蛇の列ができていたからひと目でその人気のほどが窺えた。
愛想のいい店員の助言を受けながらあれこれ頼んでいった。
家内はビール、わたしはマンゴーラッシーを選び、それで乾杯したのであったがこのラッシーのおいしいことといったらなかった。
料理もすべてが素晴らしかった。
カレーの風味の奥行きが無限に広くて深く、そのレベルの高さに感嘆するほかなかった。
先日のアド街ック天国ではカレーのうまい街が特集されていたが東京のどのどんな店よりもエディンバラのディシュームが勝ると確信できた。
食後の散策を楽しんで、日没となる午後9時に合わせホテル最上階のテラス席へと移動した。
家内がバーのカウンターで飲み物を注文し、家内にはモスコミュール、わたしにはモクテルが運ばれてきた。
まもなくエディンバラの地平がオレンジ色に縁取られやがて街全体が青みがかった闇に静かに包まれていった。
キャッスルロックにはエディンバラ城がそびえ立っていた。
その威容をライトアップするかのように上弦の月が背後で巨大に輝いて、わたしたちは息を呑んだ。
あまりに美しくずっとそこにいて飽きることはなかった。
が、次第に冷涼な空気がその度を増し風も強まってきた。
今日のところはこれくらいで。
わたしたちは十分に心満たされて階下の部屋へと引き上げた。