阪神高速から西名阪へと入ったところで小雪が舞い始めた。
気温は2℃。
やはり奈良は大阪より寒いのだった。
雪を目にした途端、家内が窓を開けた。
冷気がどっと入り込んできた。
外へと手を出し家内は童心に帰ったみたいに歓喜の声をあげた。
いつにも増して賑やかな道中を経て、まもなく奈良は室生にある龍穴神社に到着した。
クルマを降りると裾という裾から冷気が入り込んできた。
身震いしつつ、わたしたちは神域へと足を踏み入れた。
巨木が立ち並ぶ向こうに社殿が見えて、一歩近づくごとに時間が過去へと遡っていくような感覚を覚えた。
人っ子ひとりおらずあたり一帯、静まり返ってきた。
物音と言えば野鳥の鳴き声と近くを流れる川のせせらぎの音だけだった。
一年前と同様、夫婦で手を合わせ頭を下げた。
砂利を踏み鳴らしクルマへと戻り吉祥竜穴を目指して林道を進んだ。
クルマを降り竜穴へと向かって山道をくだると、修行僧が茂みのなかに立って経を上げていた。
時間感覚が失われていくような空間にてひととき過ごし、心身がすっかり清められるような爽快感にわたしたちはひたった。
竜穴に向け手を合わせ頭を下げ、お参りを終えわたしたちは町へと戻った。
参拝客の姿がちらほら見え始めた室生寺の門前でよもぎ入りの回転焼きとよもぎ餅を買って、車内で食べわたしたちはその美味しさに感動した。
そしてその足で、昨年同様、蕎麦屋へと向かった。
自然素材にこだわった料理はすべて絶品だった。
まず最初、しいたけ原木の寿司のおいしさに感嘆し、地元の野菜を揚げた天ぷらを口にしわたしたちは何度も頷いた。
締めの蕎麦は美しくさえあった。
食後は選手交代。
わたしがハンドルを握った。
朝から話し通しで疲れたのだろう。
助手席に座る家内がやがて寝入って、わたしは起こさぬよう静かな運転を心かげた。
スポティファイから流れる音楽がクリスマスソングになって、思った。
この季節になれば今後も龍穴神社と一如庵を訪れることになるのだろう。
師走の恒例行事がまた一つ増えたのだった。