市内にいるというので家内と合流することにした。
駅で待ち合わせし、一緒にご飯でも食べて帰ろうと話し合う。
ちょうどそのとき、家内の携帯にグーパスから配信があった。
下の息子は学校を終えて真っ直ぐ家に向かっているようだった。
ご飯を作ってあげないと。
家内がそう思えばそれが絶対的な優先事項となる。
息子に対し母としてできることは食事の支度くらいに限られる。
だからそれで手を抜くことはない。
母の矜持、と言えるだろう。
外食の話は流れて、帰宅ラッシュで混み合う電車に乗って帰途についた。
地元のスーパーで買物し、大急ぎで帰宅した。
ところが、家はもぬけの殻。
もしやと思ってグーパースの配信を確認すると、彼はすでに別の場所にあった。
家に帰ってくる、というのは家内の早とちり、思い込みに過ぎなかった。
どのみち食事の支度をすることに変わりはない。
家内が肉を焼き野菜を盛り付ける。
ワインを開けて二人で夕飯。
市内の雑踏から満員電車を経て食卓に至っても子らの話題が引き続く。
ワインも一本空いて夜が深まっていこうという時間帯。
電話が鳴った。
息子からだった。
二人とも飲んでいるので迎えに行けない。
そう伝え、走るか歩くかタクシーにでも乗ればいいと提案し電話を切った。
もうちびっ子ではない。
どれだけ疲れていようが這ってでも帰ってくることだろう。
そう突き放したところで親は親。
様子を聞こうと、しばらくしてから電話をかけた。
はい、と電話を受けた後、受話器とは別の方に向かって話す息子の声が聞こえた。
「ここを真っ直ぐ行ってください」
彼は本当にタクシーに乗って帰ってきているのだった。
タクシーに乗ればいいというのは半ば冗談であった。
冗談に対し冗談で返すみたいな息子の行動に、笑いが止まらない。
彼にとってひとりでタクシーに乗るのははじめてのことである。
記念すべき夜、わたしはタクシーを出迎えるため階下へと駆け下りた。