快晴の日曜朝、山にでも行こうと家内と意見が一致した。
が、食事の支度や息子の部活の電話連絡などで家内がてんやわんやしているうち、時計は9時をまわり10時をまわった。
もはや山に出かける時間と言えない。
しかしせっかくの好天。
とにもかくにも外出し、それから過ごし方を考えようとなった。
どこに行こうか?
奈良や神戸や京都や姫路など様々な案が出されるがどれも決め手に欠けた。
質問を変えてみた。
何を食べようか?
どこからともなくカレーという案が浮上して、そうなるとカレー以外には考えられず、カレーとなれば摂津本山のスパイシー料理『ぶはら』で決まりだった。
駅を降り、人気のパン屋ケルンで息子のおやつとワインのあてを買い、岡本界隈の瀟洒な通りを夫婦並んでぶらりと歩く。
すれ違う人の誰もが身なりよく、街並みもきれい。
ここ岡本は、芦屋や御影や夙川や苦楽園に匹敵する阪神間屈指の住宅街なのだった。
わたしなど下々の民。
彼我の差は一目瞭然で、気後れを覚えるからその上品な世界に紛れ込もうにも溶け込めない。
キョロキョロオドオド、挙動不審者さながらといった体になるが、家内がいるのでなんとか平静を保てるということになる。
予約の時間となって、2号線に出る。
胸がすくほど空が晴れ渡っている。
道幅がいつもより広く感じられた。
家内と向き合い、スパイスのきいたカレーを食べる。
じんわり汗ばみ、奥深くで眠る力が呼び覚まされるかのようであった。
ジムでたっぷり運動しよう。
カレーにいざなわれるようにして、本日メインのアクティビティがあっさり決まった。
阪急で西宮北口に出て、帰途、ガーデンズに寄った。
行楽日和で人が出払っているからだろう。
食品売り場はがら空きだった。
ゆっくり品を吟味しワインと食材を買って歩いて家に戻り、カレーの余韻覚めやらぬようクルマ走らせ急いでジムに駆けつけた。
ちょうど秩父宮ラグビー場で早明戦がはじまる時刻。
25年ぶりの全勝対決でありこれで優勝が決まるから目が離せない。
早明戦前半を横目で見ながら夫婦して筋トレし、劣勢となった早稲田を応援しつつ後半は走って、その敗戦をトレッドミルのうえで見届けることになった。
運動し終えてもまだ余力があった。
日がまだ西の空に残っている間、もうひと仕事しようとなって、家に戻って裏庭に集合した。
家内が植えたバラの苗は抜かぬよう注意払いつつ、生い茂る雑草を片っ端から引っこ抜き、隣家エリアに越境するオリーブの木の枝を切り落とし、隣家との境界に絡んだジャスミンの蔦をきれいさっぱり取り除く。
軽い気持ちで始めたものの庭仕事はいつだって重労働。
子らが小さかったとき裏庭で食事したことや、子らが採集した虫たちが大繁殖し一時は一帯がカマキリだらけになった思い出を懐かしみながら励まし合い、薄明かりの残照のもと、刈り込んだ草木をゴミ袋に詰め終えたときには、散髪したみたいに庭がすっきり整然となって日は暮れつつあるのに気持ちは晴れやかとなった。
労働のあとの風呂は心地よく、風呂上がりに夫婦でワインを飲んで過ごす日曜夕刻は最上の時間と言えた。
そこに宅急便でドクター・オクトパスから牛長のステーキが届いたものだから最上に輪がかかって幸福感が増し、帰ってきた息子が前の公園で走り始め、その姿が強く逞しいものだから、もうひとつおまけに幸福感が積み増しとなって、何をしたという訳でもないのに、実に素晴らしい日曜日となった。

