夕刻、仕事を終え天王寺から環状線に乗った。
実家へと向かう。
電車を降り、駅前の商店街を進む。
以前訪れたことのある花屋に寄った。
予算だけ伝え花を見繕ってもらう。
花束を手に下町の通りを歩く。
花で華やぐからだろう、気分がいい。
この日は母の誕生日。
花を贈るようになったのはここ最近のことである。
若気の頃、誕生日だからといって感謝の気持ちを伝えることはなかった。
心を欠いた習慣はずいぶんと長きに渡った。
後悔がないようにとの自己満足と言えば、当たらずといえども遠からずである。
幸い、遅すぎるといったことにはならなかったように思う。
この先、ささやか目に残る形で感謝の気持ちを表していくのは、間違ったことではないだろう。
寒さも峠を過ぎた2月中旬の夕刻。
母へ手渡す花束を持って中年の男が下町の通りを足早に歩く。
そんな場面があったと子らに知っておいてもらいたい。
いつか目に触れることを思って、書き留めておくことにした。