下りの電車と上りの電車がホームに入ったのはほぼ同時だった。
双方の扉からエスカレータへと人が押し寄せた。
見ると目の前に家内。
互い異なる電車に乗ってはいたが、エスカレータ付近に陣取っていたのは共通していた。
一歩前にいるということは、やはりわたしは家内の出足には敵わないということであろう。
上昇してゆく家内を真後ろから見上げ、その背をパシャリと写真に撮って、写メにして家内に送ってみた。
驚くに違いない。
そんな子どもじみた動機での行動であったが、ふと思う。
もし万一、家内がキャーとでも叫べばわたしは一網打尽。
変質者として周囲の者らに取り押さえられ、袋叩きに合いかねない。
加えて、家内と思ったのがとんだ見当違いで見ず知らずの他人であったなら、もはや釈明もできず、お縄頂戴となって実の家内を大いに嘆き悲しませることになったかもしれない。
そんな空想を巡らせ肝を冷やしていると、わたしの携帯に着信があった。
きもい、の一言。
家内からであった
いつ気付いたのだろう、やはりわたしより出足がいい。
JRを出て千日前線の改札まで一緒に歩き、見送った。
今夜は鴨鍋にするという。
であれば夜は焼酎のお湯割りで決まりだろう。
数時間を経て、今度は我が家リビングでいつものとおり鉢合わせすることになる。