一日一日が慌ただしく過ぎていく。
だから気づかぬうち、結構な量の疲労が降り積もる。
それで水曜の午後、にんにくラーメンを食べた後、マッサージを予約した。
やはり指圧は素晴らしい。
身体を横たえ背中を押され、わたしは思う存分その心地よさにひたった。
この心地よさは、少なくともプチプチビニールの気泡を潰して得られる快感を遥かに超える。
ツボにハマってピンポンと正解の音が涼しげに鳴り響く。
同時、身体の窓があちこち開いて、まるで詰まった鼻のとおりが全開するみたい、清々しい風が全身を吹き渡ってゆく。
安楽とはまさにこのこと。
そう思って身を委ねていると、隣の客がする噂話が耳に入った。
どうやら常連のおじさんが病床に伏し加減思わしくない。
奥さんが毎日毎日病院に通って看病しているが、かなり長期化しそうで気の毒だ。
そのような話だった。
で、ふとわたしはわれら33期の面々について考えた。
そんな甲斐甲斐しい女房持ちは一体何人いるだろう。
ユーミンは歌った。
恋人がサンタクロース。
33期の面々ならサンタをサタンと読み替えて歌うのではないだろうか。
すっかり足取り軽くなり、わたしは33期の歌を口ずさみがなら、仕事に戻った。
メールを見るとなんと偶然、久々にアキオからメッセージが届いていた。
ソウケイジがYouTubeに出ているから必見、とのことだった。
続いてタコちゃんからもソウケイジに言及するメールが届いた。
さすがの動画映え、これは人気出るに違いない。
前夜の仕事後、わたしはYouTubeでマイク・タイソン対イベンダー・ホリフィールド戦を見ていた。
出足鋭いタイソンが加速する一歩手前、ホリフィールドはクリンチで逃れタイソンの気勢を削ぎ続けた。
たいへんな集中力をもってホリフィールドはタイソンらしさを封じることに徹したのだった。
終始もみくちゃにされ、ときには頭突きされ、ペースがつかめずタイソンは徐々に消耗していった。
終盤、タイソンに隙が生じるのもやむを得ないことだった。
その隙に乗じて一気呵成にホリフィールドは攻め込んであのタイソンをリングに沈めた。
タイソンに勝つにはこれ以外に方法はない。
美しいボクシングではなかったが、美しさを捨ててこそ得られる勝利というものも存在するのだった。
そして、この夜の出し物はソウケイジ。
ビールを片手に、その語り口を懐かしむような時間が始まった。
かつて帰り道、決まって横にいたのがソウケイジであった。
この夜、記憶の散策はソウケイジに連れられ小6や中1のあたりを巡ることになった。
当然、カネちゃんの面影もよみがえり、この日の午前中にカネちゃんの顔を見たばかりだったから、新旧の時間の入り交ざりが不思議に思えて仕方なかった。
と、長男からメッセージが届いた。
この長男、かねてからわたしは思っていたが、ソウケイジくらいに面白く、タコちゃんみたいに人にやさしくコミュ力抜群で、天六のいんちょみたいに喧嘩が強く、カネちゃんみたいに気さくで、島にゃんくらい英語が上手い。
これでアキオくらいに男前だったら、絶対わたしの子ではない、と鑑定結果を待つまでもなく結論を下したことだろう。
ジムが再開したとのことで、メッセージとともに鍛え上げられ引き締まった体躯の写真が添えられていた。
おお、すげえと返事して、参考になるだろうから学ぶべし、とソウケイジのYouTubeのリンクを息子に送った。
家に帰ると、一足先に二男がリビングでくつろいでいた。
まるで若きゴッドファーザーといった貫禄。
久々に顔を合わせたので話し込み、風呂をあがった家内も会話に合流した。
次の日の朝が早いのでわたしは寝床に退散したが、のどが渇いて夜中階下に降りると、家内と二男がまだ話し込んでいた。
昨年夏、長男を訪ねたときのことをわたしは思い出した。
長男と一緒に風呂に入り話し込み、ホテルの部屋で家内も交えて3人で話し込み、わたしは先に寝入ったが、家内と長男の会話は朝まで続いた。
家内にとって息子たちはエクストリームにスペシャルな存在。
なにしろ、自身の腹のなかで存在しはじめ、豆粒みたいだったのが呼ばれて飛び出て、子グマちゃんサイズになって、気づけばいまや凛乎逞しい男子になった。
時の流れを早回しして過去から現在を見渡せば、いまこの時間に至るなど奇跡のようなことにしか思えず、だからわたしはこの母子の会話を耳にして、昨年夏に引き続き、わなわなと込み上がってくるような感動を覚えたのだった。