先日とは異なる客先を訪れた。
業務を終えると夕刻で場所は明石。
そして木曜日はジムが休みで、月火水とノンアルで過ごしていた。
ちょいと寄って帰ることにした。
ぶらり歩いて店を選びテーブル席に腰掛けた。
ビールを喉に流し込む。
職務を終えた解放感も相俟って、幸福感が全身に広がっていった。
ジムもいいが、たまの飲酒も悪くない。
いろいろなことの幸福度をランキングにすればどうなるだろう。
あれもいいしこれもいい。
そんななか飲酒が最上位に位置することは間違いないことだった。
機嫌よく飲んでいると、勤め人風情の若い二人客が店に入ってきた。
先輩と後輩といった風に見える。
営業先を回り終え、飲んで帰ろうとなったのだろう。
わたしの斜め前のテーブルに陣取ったから、ライブで会話が耳に入ってきた。
先輩が曲者だった。
後輩の服装、言葉遣い、日頃の行いなど、思いつくままNGを出し続けていった。
だから、駄目なんだよ、おまえ。
そう言われ後輩は恐縮しつつも笑顔を浮かべ、先輩にビールを注いでただ聞き入っているばかりだった。
同じ会社という力学のなかにいるからこその災難で、そうでなければこんな嫌味を言われる筋合いはまったくない。
後輩であるにせよ元を返せば赤の他人であって、つまり礼節欠かせぬ存在である。
そういうことを踏まえず、先輩は臆面もなく先輩風を吹かせ、どんどん勢いづいて図に乗っていくのだった。
その先輩はどこにでもいる嫌な奴の典型と言えた。
目下に対し嵩にかかって横柄といった男に限って、目上には男妾のようにみっともないほど媚びへつらい、戦時であれば無辜の民に手をかけて、それを手柄だと悦に入る。
そういう男に違いなかった。
そう言えば、とある人物のことが頭に浮かんだ。
物心ついた頃からうちの息子らはその男を毛嫌いしていたが、その人物がまさにこの類型にあてはまった。
自分の得につながらない相手には冷淡で、得になるなら手の平を返し卑屈なまでに調子づく。
引き続き、勤め人風情の先輩と後輩は飲み屋で向かい合わせ。
後輩は先輩にビールを注いで、そして難癖をつけられ、あれこれ指図されメモを取らされ、侮蔑された。
そんな風下に置かれる気持ちを思って不快感が込み上がるが、その不快を消し去るほどにビールはおいしい。
他所は他所。
さあ、飲もう。
わたしは席を立って二軒目に向かった。