夕刻、近鉄長瀬駅で家内と待ち合わせた。
帰途につく学生の流れと反対向きに商店街を進む。
このまま行けば近畿大学にたどり着き、その手前に先日オープンしたばかりで話題の「伝串 新時代」があった。
中に入ると男女様々なグループの学生らで席が埋まって活気に溢れていた。
席に案内されて、家内がバイトの男子に声をかけた。
大学四年生だというから親近感が湧いた。
この日家内は大阪でヨガのレッスンを受けた後、神戸まで足を運んでマッサージを受けた。
施術してくれた女子の力が強く、それをほめると、バイトで腕力が培われたとのことだった。
お好み焼きの鉄板をきれいにするには、かなりの力を要する。
そんな細かなリアリティとは無縁にわたしたちは暮らしている。
目を凝らせば、いろいろな部分に、いろいろなたいへんさが詰まっているのだった。
ちょっとしたコミュニケーションを通じ、眼前の人物の背景が照らされ、人への理解と共感が深まり、結果、ヒューマンな視線がますますヒューマンなものになっていく。
まもなくうちの男子職員がやってきた。
それぞれ近大の法学部と経済学部出身であるから、古巣に戻ってきたようなものであり、周囲全部が後輩と言えた。
家内が二人をねぎらってあれこれ注文し、いろいろと話を聞いた。
わたしは隣で静かにビールを飲んで、ジョッキが空いてはまたビールを頼んで次々飲んだ。
ここ数年で事務所が対応する業種のバリエーションが増した。
もともと建設業やクリニックが顧客の中心だったが、そこに各種製造業のお客さんが加わり、こうした飲食店といったサービス業の仕事もするようになった。
事務所世界が広がって、日々の業務を通じて学びの量が倍加した。
業務自体の学びというより、人間理解というのだろうか。
世には様々な持ち場があり、そこに多様な喜びや苦労がある。
そんな当たり前をリアリティをもって学ぶから、自ずと人生というものに対し謙虚になって、二人の職員の仕事観はより真摯なものになったように思える。
だからそれにつれ仕事の質も良くなったと言えるかもしれない。
家内がじゃんじゃか注文し続け、たっぷり食べてあっという間に二時間が過ぎた。
すでに待ち客が店外にもいたから長居は無用だった。
長瀬で別れ、わたしたちはタクシーで今里にある万宝家に向かった。
近所にあれば連日でも通いたい。
そんな店であるから、このあたりに来れば外せない。
夫婦で向き合い、いつものように飲んで食べ、しかしいつにも増して胸が充実感に溢れていたのは、苦楽をともにしながら互い少しずつ成長してきたとの実感を覚えたからかもしれない。
お腹が膨れてもう食べられないが、まだ食べたいメニューがいくつもあった。
だからテイクアウトの品を頼んでそれを携え店を後にした。
夜風に当たりながら、ぎらつくネオンでディープな色に染まる今里の通りを駅まで歩き、あとは近鉄電車で西宮まで運ばれた。