KORANIKATARU

子らに語る時々日記

一瞬そこには埋めようのない空白が残った

気づけば朝の7時だった。

 

普段は夜中に目が覚めて、短い睡眠を幾度か重ね朝5時になって寝床を出る。

ぶっ通しでぐっすり眠るなど久しくないことだった。

 

家族三人で1階のレストランに降り、窓際の席にて日の出を眺めながら朝食をとった。

ビュッフェだからといって欲張ることなく、三人が三人、必要最小限の分量で済ませた。

 

食後、温泉で過ごしてから帰り支度を整えた。

ホテルの各所で夫婦、母子、父子など各組ペアとなって記念写真を撮り、最後は三人揃ってホテルの人に写真を撮ってもらった。

 

そしてロビー横の売店で名物であるチーズケーキを買い求め、掘り出しものがあったとのことでミキモトにて家内は自身への記念の品を選び、それで用事は完了。

帰省ラッシュに巻き込まれぬようさっさとホテルを後にした。

 

道は空いていた。

すいすい快調に走ったが、途中で私は睡魔に襲われた。

草津インターで家内に運転を代わってもらい、わたしはiPadを手にNHKオンデマンドで年末の紅白歌合戦の模様をぼんやり眺めた。

 

行きには3時間以上を要したが、帰りはたった2時間で済んだ。

家に着くなり、わたしは武庫川へと走りに出て、息子はジムへと向かった。

 

午後4時半。

家のリビングに家族三人が集まった。

長男が荷物をまとめ、その荷造りを家内が手伝った。

 

あれもこれもと家内が食材をかばんに詰め、長男は苦笑いを浮かべつつ、その愛情分だけ重くなった荷物を背負って、両手にも引っ提げた。

 

少し持とう。

そう言ってわたしは手を差し伸べた。

が、自分で持つと言って息子はわたしに荷物を持たせようとはしなかった。

 

駅前でタクシーに乗り込み、尼崎の焼肉 激へと向かった。

予約時間を過ぎていた。

その旨を伝えると運転手が気を利かせ二号線を突っ走ってくれた。

 

結局、遅れは15分で済んだ。

制限時間90分のうち75分も残っていたから、肉をたっぷり食べるのに不足はなかった。

 

激はやはり素晴らしかった。

あれもこれもと注文し、息子は大いに喜んだ。

 

その昔、タクシーの運転手に勧められ夫婦で訪れ気に入って、後日二男を連れ、そして今回ようやく念願かなって長男を伴うことができた。

だからわたしたちの方が喜びは大きかったかもしれない。

 

汽車の時間が迫っていた。

わたしたちは店を出てタクシーをつかまえ、JR尼崎へと向かった。

 

駅のホームへと母子が並んで歩き、わたしは一歩遅れてその後について歩いた。

 

まもなく上りの列車がやってきた。

わたしたちはシートに座る息子を見届け、手を振った。

照れているのか息子は目を伏せ携帯に目を落とした。

それでもわたしたちは手を振り続けた。

 

列車が走り去り、そこには埋めようのない空白が残った。

無視しようのない空白を引き連れて、わたしたちは下りの電車に乗って家路に就いた。

 

帰宅してすぐ家内は二男に電話を掛けた。

1月8日の日曜日に大阪星光66期の成人式がヒルトン大阪にて催される。

それに参加するため二男は大阪へとやってきて、その日のうちに東京へととんぼ帰りする。

 

成人式の前後、息子に会おうと思えば会えるのであるから家内がそこに行かない訳がない。

会場付近にて、母子、父子、親子3人といった図で記念写真を撮ることになるだろう。

 

そんな楽しい様子が夫婦の頭に思い浮かんで、いつしか空白は二男の面影によってふっくらあたたかに満たされた。

2023年1月3日朝 鳥羽国際ホテル

2023年1月3日夜 尼崎 焼肉 激