前日、電車を使って芦屋へと向かいお酒を飲んだ。
だから自転車はジムに置いたままにしてあった。
それで日曜は歩いてジムに向かった。
朔日であったから途中、熊野神社を経由し手を合わせた。
まもなく西宮北口というところ、沖縄料理の店と目が合ってそこで昼を済ませることにした。
沖縄そばとタコライスを待つ間、調度品や店のカラーやこじんまりとした雰囲気からふと昔の記憶が蘇った。
野田に事務所があったときのこと。
近くに小さな喫茶店があった。
ある時期、何度も待ち合わせてそこで父と珈琲を飲んだ。
ちょうど二男が大学を受験している真っ最中のことだった。
用事の話や世間話の合間合間、同時進行している大学受験についてわたしは父に説明した。
場末の喫茶店にて、父とともに手に汗握るような気持ちになったことがつい昨日のことのようである。
その頃、母も健在だった。
数カ月後に亡くなるなど想像さえできないことだった。
受験結果がぼちぼち出始め、喫茶店にて父はたいそう喜んだ。
進学先の選択についていろいろと思い巡らせ、受かったところならもうどこでもいいではないかと父は言ったが、本命の受験が後に控えていたからわたしはまだピリピリと張り詰めていた。
当時のリアルな空気がよみがえり過去と今とを同時に感じながら、わたしは沖縄そばとタコライスを交互に食べた。
結局、第一志望には振られたが、結果が出揃った後、二男は母のもとを訪れた。
そこらを連れ回し「この子、今度東京に行きやんねん」と母は近所の人と顔を合わせる度に語り、たいそう嬉しそうだったという。
その後も順調に息子たちは成長し、母に報せたいことが目白押しであるが叶わない。
二男の大学について報告できたのはせめてものことだった。
思い出が思いがけない場所でよみがえって、過去と今とがありありとつながる。
それらありありとした記憶を携えたままわたしは西宮北口のアプローチを進み、まもなくジムというところ。
駅とジムをつなぐ渡り通路から階下の駐輪場が見渡せた。
懐かしい記憶を探るみたいに自転車置き場を覗き込むと、そこにちゃんと自転車があってほっとした。
不意にわたしのもとを訪れた過去をヘビロテするみたいに併存させて、わたしは泳いで筋トレし、帰りは自転車に乗って秋風のなかを帰宅した。